Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

サイエンスホールディングス会長 青山恭明さん

2021年8月5日
サイエンス初の体験型ショールーム=大阪市中央区

 女性の頬に塗った油性ペンの黒インクが、シャワーの水流で落ちていく−。サイエンスホールディングス(大阪市淀川区)は、テレビCMの実証映像を通して、「ファインバブル」と呼ばれる細かい気泡を出す自社製品シャワーヘッド「ミラブル」を一気に広めた。2007年の会社設立以来、売り上げは右肩上がり。市場の開拓に余念がない会長の青山恭明さん(61)に聞いた。経営の要諦は? 返ってきた答えは「公益資本主義」だった。

■「望年会」旅行

 会社設立時の第1期が赤字で終わり、創業仲間と一緒に訪れた京都・湯の花温泉で「利益を出していこう」と誓い合った。以来、売り上げを伸ばしている。昨期は57億3600万円。今期は72億円を見込んでいる。

 今では、社員が家族を連れて旅行する年末の「望年会」はサイエンス文化だ。社員がチームごとに芸を披露する。そのための準備、練習は日々の仕事と同じベクトルだ。旅行先の北陸の旅館では、支配人から「ここ温泉ですが」と苦笑されたこともある。昨年末は、新型コロナウイルスの感染リスクを避けるため中止したが、年明けの2月は沖縄へ慰安旅行した。こうした旅費の資金は社員みんなで上げた利益だ。

■恩返し

 サイエンスは今年3月に大阪府の二つの基金へ合計1億5千万円寄付した。「2025年日本国際博覧会大阪パビリオン基金」と「新型コロナウイルス助け合い基金」だ。サイエンスの広報活動として寄付したが、実は、本音は別にあった。

 私の次女は、小学2年生で急性白血病と診断された。隔離された病室に入ったため、面会時間は限られた。夕食の午後6時以降は面会できず、次女は時計の針が6時を指すと涙ぐんでいた。あの時のつらさは忘れられないが、私は看護師に助けられることもあった。「絵本を読もうか」と次女の意識を絵本に向けさせてくれ、その間に、私は妻と共に病室を出たのだ。年配の看護師だったが、一晩中、次女の足をさすってくれたこともある。だから、看護師に恩返ししたいと思っていた。新型コロナ助け合い基金への寄付の背景には、医療従事者の方々への感謝の気持ちがある。

■右胸に「赤ボタン」

 私たちは、世の中のマーケットから利益を上げているため、社会にお返ししなければいけない。この気持ちを全社テレビ会議で伝えたところ、みんなが拍手で賛同してくれた。社会に還元するために、企業は存在する。「公益資本主義」で会社を経営していくことを、私は4月に社員の前で宣言した。私たちの目標は経営理念の達成だ。サイエンスに関わる全ての人に感動と喜びを与えることが私たちの使命だと考えている。

 サイエンスマン、サイエンスウーマンとしての肝は「素直人」になること。そのための方法として、架空の「赤ボタン」を右胸に、「黒ボタン」を左胸に付けるよう呼び掛けている。赤ボタンは積極的な精神、黒ボタンは消極的な精神だ。与えられたテーマに対して「できるわけがない」と否定する社員は、黒ボタンを押している。赤ボタンを習慣化すれば、目に映る風景は変わってくるはずだ。赤ボタンを押し続けた入社3年目の女性社員は、公私ともに一歩前へ出るようになった。「黒ボタンのスイッチは壊れました」と話す彼女が頼もしく見えた。

■温泉事業部

 「ミラブル」の科学的エビデンス(根拠)を確立するため、サイエンスは、九州にある大学と共同研究を始めた。その一環で、熊本県内の温泉を対象に新たな魅力を創生する県のプロジェクト「くまもっと湯美人ふろモーション」に取り組んでいる。具体的には、黒川温泉、山鹿温泉、上天草温泉などの旅館おかみにミラブルの保水力を実感してもらい、導入を検討していただいた。結果、ミラブルを使用する旅館は増え、評判は全国の旅館に飛び火している。このため、社内に「温泉事業部」を設置しなければいけないほどだ。

 いま、温泉旅館は新型コロナ禍で疲弊している。役に立ちたいと思う。これも、サイエンスの経営理念だ。どうすれば、喜んでもらえるか常に考える。公益資本主義の考え方だ。

■人間洗濯機

 先ほど、大阪府の2025年日本国際博覧会大阪パビリオン基金にも寄付したと伝えたが、私は、ファインバブルを使った未来の「人間洗濯機」を25年大阪・関西万博に出展したいと思っている。1970年大阪万博に、小学生だった私は20回以上訪れた。アメリカ館の「月の石」など、まさに「夢の塊」だった。当時の万博会場に出展された三洋電機(現パナソニック)の「人間洗濯機」は、超音波で発生させた気泡で体を洗うもので、サイエンスの原点だ。

 25年大阪・関西万博を通してサイエンスの世界戦略の足がかりを築く。私の担当は、そこまでだ。創業者の頭の中は成功体験で占められているため、時代の変化に付いていけない。裸の王様にはなりたくない。私はいま、61歳。67歳で、サヨナラするつもりだ。バトンを受けた次世代が命懸けで取り組まなければいけない。引退後、私は1年に1回ぐらい会社に顔を出す。ひよっこが成長するのを楽しみたい(笑)。

 (聞き手は深田巧、大島清孝)

 あおやま・やすあき 1959年、大阪市東成区出身。高野山真言宗の常楽寺に次男として誕生した。大阪高卒。自動車タイヤメーカー就職後、不動産事業会社、学習機器販売会社の営業職を経て、47歳でサイエンス設立。一般社団法人ファインバブル産業会理事、日本抗加齢協会理事・九州支部理事、大阪商工会議所ライフサイエンス振興委員会委員、10歳若返りプロジェクト実行委員。

 【体験型ショールーム】
 サイエンスは今年1月に同社初の体験型ショールームを、大阪市中央区に開設した。「ファインバブル」と呼ばれる細かい気泡を出すシャワーヘッドの「ミラブル」をはじめ、水栓の「ミラブルキッチン」、入浴装置「ミラバス」を展示している。所在地は御堂筋の西心斎橋。


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