Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

日韓合作映画「ただ傍にいるだけで」日本人主人公 野中 朋子さん

2021年8月22日

日常が必ず役に立つ 親近感醸す役者

映画「ただ傍にいるだけで」の日本人、韓国人主人公の4人。左端が章子役の野中朋子さん=製作委員会提供

 今年2月、大阪・テアトル梅田で上映された日韓合作映画『ただ傍(そば)にいるだけで』は、好評だったため、8月6〜19日に再上映された。本紙「Voice(ボイス)」はこれまで、『ただ傍−』のキーパーソン2人に焦点を当ててきた。製作委員会代表の山崎恵子さん(1月7日掲載)は作品のテーマだった「つながり」を解説し、監督の上田時高さん(4月26日掲載)は作品が共感を得た背景を説いた。人間の交流を描く映画は、コロナ禍の時だけに親しみを増す。日本人主人公の野中朋子さん(45)はまさに、親近感を醸し出す役者。「日常が必ず役に立つ」と信条を語った。

■「アテレコ」好き

 関西外国語大短大を卒業して営業事務の仕事に就いた時、手に取った演劇専門誌「演劇ぶっく」にミュージカルスクール「STAGE21」(大阪市中央区)が載っていた。学校紹介の記事を参考に見学。ここで、身体表現を学んだ。

 もともと、子どもの頃から「声の芝居」に興味を覚えていた。声優の野沢雅子さんは「銀河鉄道999」の星野鉄郎や「ドラゴンボール」の孫悟空の声で知られ、その演じ分けが格好良かった。田中真弓さんによる「ドラゴンボール」のクリリンや「ONE PIECE」のルフィの声、藤田淑子さんによる「一休さん」の一休や「キャッツ・アイ」の来生泪(きすぎるい)の声など、声優が持つ声の種類はすごい。キャラクターの演技に声を当てる「アテレコ」を好きになったことがきっかけで、役者の道に興味を覚えた。

■芝居、副業、子育て

 役者は「面」をかぶるため、自分の性格ではできないことまでできてしまう。パーーーンとはじけたような役を、強気で演じることができる。STAGE21で学んだ後に所属した劇団「Shibaiya遊歩堂」やゲスト出演した他劇団で、私は、女性を前面に出すキャラクターを配役された。自信を持てないでいた私の性格を見越して、ストリッパーの役を任されたこともある。

 芝居の仕事だけでは収入が十分ではない。副業は欠かせない。私はこれまでにファミリーレストランや居酒屋で働いた。現在も、カフェと生花の二つのショップで仕事している。

 私は中学3年の娘と2人暮らし。実は、娘の中学入学を機に芝居の仕事を休止し、娘の学校生活を中心とする暮らしを考えていた。母子家庭のため、時間が不規則な芝居をやっている場合ではなかった。その矢先に、映画『ただ傍にいるだけで』のオーディションの案内が届いた。

■山崎さんに恩返し

 製作委員会代表の山崎恵子さんと私は、約10年の付き合い。山崎さんが開設したシアターカフェ「Nyan(ニャン)」(大阪市西区)に、当時まだ幼かった娘を連れて芝居の稽古に通うと、よく相手をしてくれた。山崎さんは保育士や幼稚園教諭をされていたから、子どもの接し方がうまく、私は本当に助かった。その山崎さんが大阪、関西の役者で映画を作ろうとしていると聞き、すてきだと感じた。山崎さんに恩返ししたいと考え、オーディションに臨んだ。

 日本人主人公の章子役を任された。ここでも、山崎さんは気遣ってくれた。撮影を終え、みんなで食事に行く際、「野中さんはお帰り」と山崎さんは声を掛けてくれた。自宅で待つ娘に寂しい思いをさせずに済んだ。

 撮影の思い出はいろいろある。私は兵庫県伊丹市出身、尼崎市在住の関西人だけど、求められる関西弁をうまく使えず、よく「NG」になった。このため、相手方の守役を演じる大野洋史さんに関西弁を教わり、山崎さんにも教えてもらった。撮影の時、山崎さんから「泣いてよ」と言われたこともある。難病に侵されていた守が倒れるシーン。守のせりふが胸を打ち、本当に泣けた。

■「自信を持って」

 撮影のため訪れた韓国は、私にとって初めてだったので、不安だった。でも、韓国人スタッフは歓迎の横断幕を用意し、温かく迎えてくれた。「ファイティン」と応援してくれる言葉も印象的だった。撮影が休みの日は観光地を案内してくれたり、子育ての相談にも応じてくれた。

 今の私は、娘の弁当を作って、カフェ店と生花店で働く毎日。この日常が役者として必ず役に立つ。静と動で考えた場合、動の芝居はこれまでも経験した。私の課題は静の芝居。『ただ傍−』のような芝居を求められた時、普段の暮らしが重要になる。日常生活を丁寧に、大事に生きるかどうかだと思う。

 日常の中で、娘が私の一人芝居をよく見てくれる。ダメ出しすることもあるけど、「ママ、もっと自信を持って」「ママが思うほどひどくないって」と励ましてくれる。こうした日常も大事にしたい。

■通じ合う隣国

 私が好きなアーティストは、シンガー・ソングライターの秦基博(はたもとひろ)さん。「アイ」の曲を気に入っている。「♪目に見えないからアイなんて信じない そうやって自分をごまかしてきたんだよ 遠く遠くただ埋もれていた でも今あなたに出会ってしまった〜」と歌う。

 曲名の「アイ」を、「愛」と漢字で書けば、その通り、愛だ。だけど、目に見えないモノだから、漢字の「愛」ではなく、「アイ」なのかな。

 好きとか言わない愛情もある。ただ傍にいるだけでも、愛情。隣国同士の日本と韓国も、傍に位置することで通じ合っている。次の目標として、山崎さんは韓国上映を考えていると思う。

 (聞き手は、深田巧)

 【ただ傍にいるだけで〜あらすじ】 映画監督への夢を抱き、業界での仕事に励む守。敏腕プロデューサー章子との出会いから自主映画を撮り始めるが、思いも寄らぬことがきっかけで撮影中止に追い込まれる。そんな中、敬愛する祖母の訃報の知らせが…。
 夢を捨て、下町の時計店での日常を送る守の下にある知らせが、そして、自身も難病に侵されていることも知る。途方に暮れ、かつての留学地・韓国へ。そこで俳優を目指すジェボムと出会うことから、新たな物語が動きだす。

 のなか・ともこ 1976年、兵庫県伊丹市生まれ。関西外国語大短大英米語学科卒。ミュージカルスクール「STAGE21」でダンス、演劇を学んだ後、劇団「Shibaiya遊歩堂」に所属。出産を機に退団してからは、一人芝居、即興演劇、ダンス公演などの舞台を中心に活動。日韓合作映画『ただ傍にいるだけで』で日本人主人公の章子役を熱演。尼崎市在住。


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