Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

NPO法人農産物加工協会代表理事 川西 修さん

2021年11月11日

農林漁業を元気に 6次産業化へ、NPO法人設立

NPO法人農産物加工協会の発足発表会=10月14日、大阪市中央区

 農林漁業者が農畜産物や水産物を生産するだけでなく、加工、流通販売する「6次産業」推進団体として、「NPO法人農産物加工協会」(大阪市阿倍野区)が7月に発足した。代表理事に就任した川西修さん(75)=幸南食糧会長=は「1次産業が元気でなければ日本は元気にならない」と訴えている。“1次(農林漁業)×2次(加工業)×3次(流通・販売業)=6次産業”に寄せる思いを聞いた。

■最大のライバルは「時代」

 香川県の農家に生まれた私は、県立坂出工業高を卒業すると、大阪へ出て、米の流通問屋に就職した。関西に出なければ職に就けない時代だった。就職した大阪市港区の問屋で修業に励んだ。独立起業したのは24歳の頃。大阪府松原市の地で、7坪(23平方メートル)の貸店舗からスタートした。

 当時は食糧管理法の下で、国の規制が厳しく、販売方法まで指導を受けたが、私には疑問だった。消費者がどんなサービスを求めているのか、そこに対応しなければいけないのではないかと。松原市内には小売りの米穀店が私の店を含めて48店あった。いわば競合相手だが、最大のライバルは「時代」だと思っている。私は著書にこう記している。

 「私たちは、ライバルというと、つい、同業他社のことを思い浮かべます。売り上げやシェアを争ったり、新製品の開発を競ったりします。しかし、時代という強力なライバルの前では、自社、他社もろとも一網打尽にされてしまうこともあるのです。今まで、栄えていた産業や、今まで重宝がられていた商品が、時代が変わったおかげで見向きもされなくなったり、全く別の商品にすっかり取って代わられたりしてしまうのです」

■安心安全、健康、簡単便利

 時代は変わり、国の規制緩和によって、松原市内に誕生した大型商業施設でも米を扱うようになると、私たちのような米穀店は立ち行かなくなる恐れが生じた。このため、私は、米穀の卸メーカーになることを決意した。13億円を投じて、食品開発拠点の工場をこの松原市に建設した。

 時代という観点で言えば、米に対する消費者の思考はどんどん変化している。食べておなかが膨れるだけで良かった時代から、「おいしい」「安心安全」「健康的」な加工商品が求められるようになった。そして、核家族化が進み、共働き家庭が増えれば、「簡単便利」な商品が必要になった。

 いま、松原市の自社工場はどんどん受注している。生産者の声を聞くと、米だけでなく、リンゴ、ナシ、イチゴ、カキ、ニンジンなどでも、おいしく、安心安全で、健康的で、簡単便利な商品ニーズが高まっていた。その思いを実現するため、野菜や果物の加工メーカーに呼び掛け、「農産物加工協会」を7月に設立した。

■メリットと課題

 余談だが、香川県(旧・讃岐国)は、讃岐うどんで知られる。うどんの一大産地だが、実は、ため池の多さも全国屈指だ。これには訳がある。降雨量が少ないからだ。ため池がなければ、農産物を作れない。つまり、水がなければ、米を作れないが、小麦は比較的作ることができる。小麦からうどんを作る工程を見て育っただけに、原料を加工し、付加価値を高め、ブランド化する必要性を強く感じている。

 やはり、1次産業に元気がなければ、日本は元気にならない。日本は少子化だが、世界の人口は増えていることを考えると、日本の食料自給率30%台は問題だ。食料危機が生じると、難民になってしまう。ひいては、食料を奪い合う戦争が起きるかもしれない。だからこそ、食料自給率を上げなければいけない。そのためにも、1次産業がもうかる環境を整える必要がある。6次産業化を進めれば、若者が参入し、地域活性化につながる。

 メリットだけでなく、課題もある。商品開発を巡っては高度な衛生管理が問われる。事故を起こせば、取り返しがつかない。だからこそ、私たちメーカーの役割、責任は重要になる。もうひとつの課題は、出口戦略の確立だ。消費者が何を求めているか、しっかり情報収集する一方で、開発した商品の情報発信も大切だ。そして、NPO法人農産物加工協会では実践事例、特に失敗談を共有していく。

■失敗談に学ぶ

 私は全国で講演し、「小さな一流企業」を創った幸南食糧創業者としての経営術を紹介させてもらっている。失敗談を披露すると、聴講者の受けがいい。一つの事例はこうだ。

 創業間もない頃、総売り上げの3割を占める客から、取引停止を言い渡された。理由を聞くと、この客の店に出入りするわが社の社員があいさつできていなかった。私は、その時思った。モノに対するクレームから、ヒトに対するクレームへ、時代は変わったのだと。そして、1社で総売り上げの3割を占めるような客を作ってはいけないと痛感した。こうしたことに気付き、学んでもらうためにも失敗談の共有は欠かせない。

 先ほども述べたが、最大のライバルは同業他社ではなく「時代」だ。私はこのことを肝に銘じ、NPO法人農産物加工協会を運営していく。

 【NPO法人農産物加工協会】
 農林漁業者が生産物を加工、流通販売する「6次産業」の支援を目的に、2021年7月に発足。食品加工メーカー13社でスタートし、先々は20社体制を目指す。活動の柱は「生産者と加工メーカーのマッチング」「加工メーカーへの研修(衛生管理)」「6次産業化商品のメディア発信」。協会の本部は大阪市阿倍野区のあべのハルカス29階(幸南食糧ハルカス営業部)。

 かわにし・おさむ 1946年、香川県生まれ。県立坂出工業高卒業後、大阪市に出て米穀業界で修業。71年に松原市で独立起業し、76年に米穀卸メーカーの幸南食糧を設立。2011年に幸南食糧会長就任。18年秋の叙勲で旭日小綬章を受章。21年7月にNPO法人農産物加工協会設立。


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