Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

大阪府高齢者大学校理事長 古矢 弘道さん

2021年12月2日

会社人生とさようなら 座右の銘は「これから創春」

学習発表会で合唱する受講生=2019年11月、豊中市

 大阪府高齢者大学校(愛称・コーダイ)の理事長に、古矢弘道さん(76)が就任した。「もともとどんな仕事をしていましたか」と記者が質問すると、「コーダイでは僕がしていた仕事を誰も知らない。僕は会社人間としてのバックボーンを捨てた。新しい人脈を築いた方がこれからの人生にいいと思っている」との答えが返ってきた。人生100年時代を展望するため、古矢さんの価値観に耳を傾けた。

■小学生の頃の思い出

 会社の看板で付き合いを広げ、会社人間として生活していた。2009年に会社を定年退職し、10年にコーダイを受講したわけだが、実は当時、仕事の話を頂戴していた。しかし、同じ道を歩むのではなく、違う人生を切り開きたいと思った。大学を卒業し、定年退職するまでの約40年間働き続けた。同じように仕事するのではなく、いろいろ体験したくなった。

 もともと無趣味だったため、定年退職を前に、水彩画を始めてみた。小学生の頃、友人が淡い色彩で絵を描いていたことを思い出し、僕も、あんな色彩を出してみたいと考えた。自然の風景をスケッチし始めたが、もっと上達したくなり、コーダイを受講した。ところが、当時の科目に油彩画はあっても、水彩画はなかった。油彩画では淡い色彩を表現できない。そこで、英会話の講座を受けることにした。僕は会社に勤務していた頃、欧米やアジア各国に出張し、日常の英会話はできたので、復習するつもりで受講した。

 その後も、コーダイに残り、クラスディレクターや理事を務めた。同窓会の「東淀川の会」会長も引き受けた。東淀川の会は会長のなり手がなく、周囲から「生かすも殺すも、古矢さん次第だ」と言われ、「うん」と答えてしまった(笑)。

■人気の科目

 教科研究部門長にも就任し、魅力的な科目の開発や講師の発掘に取り組んだ。「こんな科目を受けてみたい」とイメージしながら、講師発掘のための情報を収集した。例えば、テレビ番組を見ていて「この先生いい」と思ったら、メモするようにした。

 人気科目の一つは「ボイストレーニングを楽しむ科」。年を重ねると、滑舌が悪くなり、会話しても嫌がられてしまう。滑舌が良くなれば、魅力を高めることができる。のどを鍛えることは健康にもいい。そうしたことが人気の背景にあるようだ。

 「大人のお洒落(しゃれ)な生き方を学ぶ科」も人気だ。いくつになってもおしゃれに関心を持っていれば、日常生活に変化が生まれる。コーダイに行く日は化粧しよう、この服を着ようと考えるようになる。人の第一印象は、話の内容よりも声の抑揚や話し方、表情が大事だ。この科目では、笑顔の作り方や歩き方も学ぶことにしている。

 「醸造を楽しく学ぶ科」も、定員オーバーになるほど。コーダイの活動拠点(大阪市教育会館)に近い森ノ宮エリアは飲み屋が多い。お酒の正しい飲み方を学んでほしいと取り入れた。座学だけでなく、工場見学もある。

 「美の世界と美術散歩科」も座学をはじめ、美術館を散策する。「鉄道を学び旅を楽しむ科」は鉄道旅のお得情報、隠れた観光スポットを学ぶ。

 コーダイの受講生2254人に対し、講師は約400人。講師陣はその道に優れた人たちだ。

■居場所作り

 7月1日に理事長に就任し、22年度受講生募集案内にこう記した。

 「子どもから高齢者まで笑顔と活力が満ちあふれる生涯学習校を目指しています。皆さまも自粛疲れでコミュニケーションの大切さ、適度な運動の重要さを痛感されたと思います。コーダイに入学すれば、楽しい仲間とのコミュニケーション、魅力的で興味のある講座や規則正しい生活で、その悩みも一気に解消し、コーダイ生活を楽しんでいただけると確信しています」

 人生100年時代と言っても、のんべんたらりと生きていても仕方ない。残された時間をいかに有効活用するか。チャレンジ精神を失わず、目標を持つことが大事だ。年を重ねれば、友人が減り、家族から見放されるかもしれない。このため、楽しい仲間を持つことは欠かせない。心地よい居場所があることも大切であり、そのための公的支援も必要だろう。

■輝くシニア

 僕の座右の銘は「これから創春」。若い頃の心ときめいた青春をクリエートする。つまり、春を創るということだ。老いは隠せないが、「老春」ではなく、「創春」だ。

 私はコーダイいちずで来ただけに、これからは「家内(妻)孝行」する。家内と共に、ローカル電車で旅行したい。特急電車ではなく、1両か2両編成の電車に乗って気ままに旅行できれば。

 もうひとつ、思うことがある。僕たちの世代は次世代のために有形無形の財産を残さなければいけない。社会参加活動などで人の役に立つよう心掛け、若い人の見本になることが大切だ。社会保障費が増加していくことを考えると、次世代の負担を減らすためにも、健康を維持しなければいけない。輝くシニアになることを心掛けたい。

(聞き手は、深田巧)
 ふるや・ひろみち
 1945年生まれ。疎開先だった母親の実家(和歌山市)で生まれ、大阪市東淀川区で育った。大阪府立大卒。電気機器メーカーを2009年に退職し、大阪府高齢者大学校を受講。21年7月1日に第4代理事長に就任した。妻の和子さん(72)と共にローカル電車で旅行することが目標。『小指の想い出』を歌う伊東ゆかりさんが「青春時代のスター」(古矢さん)。

 【大阪府高齢者大学校】
 大阪府が1979年に設立した大阪府老人大学が前身となる。行政改革によって廃校になったが、同窓会有志が2009年にNPO法人として大阪府高齢者大学校を立ち上げた。愛称はコーダイ。生涯学習と社会参加活動を使命とする。新型コロナウイルス禍でも、2254人(平均年齢71.3歳)が受講している。運営スタッフ約200人はボランティア。「全国的に見ても、これだけ大きな組織をボランティアが支えて運営する民立の生涯学習校はほとんどない」と古矢弘道理事長は話している。


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