Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

歌人  高田 ほのか

2022年4月7日

社長100人100首の原点詠む

 社長の「信念」は何ですか? 仕事で大切にする「根っこ」は? 歌人の高田ほのかさん=大阪府出身、在住=は関西の社長にインタビューし、経営の原点を短歌にする活動に忙しい。2019年に始めたインタビューは50人を超えた。大阪・関西万博が開催される25年に「100人100首」の歌集と展示会を通じ、世界に発信する意向だ。

■心を元気に

 新型コロナウイルス禍でも社員の雇用を守り抜く飲食会社の社長、女性や高齢者を積極的に採用するシステム開発会社の社長、持続可能な開発目標(SDGs)の普及に取り組む一般社団法人を立ち上げたウエディング会社の社長−。

 「インタビューして感じるのは、ステキな社長ほど日本、そして世界を良くしていきたいという思いが強い」と高田さん。100人100首の歌集を通して「五・七・五・七・七の型には長い歳月を生き抜く力がある。百年先、千年先の悩み苦しんでいる人たちに残せるような、そんな関西の財産になれば」と願い、こう続けた。

 「短歌を詠むことが心豊かな暮らしにつながる。このことを発信していきたい」

 短歌で心を元気に、そして、平和な世の中に−。高田さんが後世に伝えたいテーマだ。

■天神・天満花娘

 実は、社長100人を対象とする歌集作りの前に、店主100人の歌集を完成させている。それが、18年刊行の『100首の短歌で発見! 天神橋筋の店 ええとこここやで』だ。

 高田さんはもともと、関西学院大の学生だった03、04年に天神・天満花娘を務め、日本三大祭りの一つ「天神祭」をもり立てた経験がある。これが縁で、天神橋筋商店連合会会長の土居年樹さん(16年永眠)をはじめ地元関係者と親交を深め、商店街の店主100人の人情を短歌に詠んだ。

 「ああここが私の舞台仕上げには天満天神のお出汁(だし)を放つ」は、大阪天満宮の名水を使った串焼き店主の思いを詠んだものだ。

 天神祭献詠短歌大賞の実行委員長も務め、大賞は19年までの10年間続いた。寄せられた短歌の総数は約5千首。くしくも、一夜に打ち上げられる奉納花火の合計5千発と同じ数になり、高田さんはこう詠んだ。

 「十年のこれが祭ぞ五千発の歌が織りなすとりどりの色」

■「今」を切り取る

 天神祭の奉納花火も20、21年と中止の状態が続く。コロナ禍の日常を、高田さんは3首詠んでいる。

 「あちらからしたらこちらがウイルス息を止めあい目で微笑(わら)いあう」

 「玄関をあければピザーラ 2メートル遠くの帽子がおじきをしてる」

 「(どの花も安すぎるやろ)かさかさと前カゴで揺れるスターチスの青」

 1首目は、自宅マンションのエレベーターホールで一緒になったご近所さんとの微妙なやりとりを表現した。

 2首目は、ピザの宅配が増え始めた風景を伝えている。

 3首目は、イベント自粛で打撃を受ける花屋さんの気持ちに思いを巡らせた。花のスターチスの色に青を選んだのが特徴だ。

 短歌は五・七・五・七・七の31音に100文字分、それ以上の思いを圧縮できる。読者はその31音を解凍し、自由に読み解くことが可能だ。

 「短歌は『今』を切り取るのに適した文学です」と高田さんは説く。

■つながり

 高田さんが監修した『基礎からわかる はじめての短歌 上達のポイント』に、短歌の魅力が次のように記してある。

 「自分自身の話なのか、知らないだれかの物語なのか、そもそも物語ではない、とも言い切れない…その、虚構と実話の境界の曖昧さが味わい深いのです」

 「ストレートに叫ぶと批判されてしまうような本音も、短歌なら自由に発することができます。もう、(王さまの耳はロバの耳!)って壺(つぼ)にこっそり叫ばなくていい。本音を、五・七・五・七・七に乗せるだけで“作品”だと思ってもらえる。しかも、わたしも、ぼくも同じことを思ってたよ! って言ってもらえたりする」

 つまり、短歌は自分と相手が互いに深くつながることができるツールでもあるのだ。

 高田さんは主宰する短歌教室や講師を務める大学の講義で実践的に指導をしている。現場で取り入れているのが、平安時代から続く「付け合い」という遊びだ。五・七・五の上の句を一人が詠み、その思いを受け止める形で、もう一人が七・七の下の句を詠む。付け合いも「つながり」を体感するものと言える。

■光を照らす

 先日、高田さんの手元へ海外から便りが届いた。ロンドンから短歌教室に参加している30代の女性だ。

 「出産と夫の転勤で数年間休会していましたが、ロンドンでの子育てを通じて、日々の生活や子供の成長を写真だけでなく短歌でも残したいと思っていたところ、オンライン教室が始まったことを知り、再び参加をしています。ほのか先生の優しく温かいお人柄、しかし短歌のブラッシュアップのためには、時に厳しく本音で指導くださるお陰(かげ)で、自分の進歩を感じながら楽しく続けられています」

 便りにはこんな短歌が添えられていた。

 「六歳は大雨すらも虹にするキャンパスノートのCanCanCanCan」

 そして、こう結ばれている。

 「短歌を詠み続けることで自分の生きた証しを残せています。日常のただ過ぎてしまう一瞬に光を照らしてくれる短歌との出合いに感謝しています」

 まさに、高田さんが後世に伝えたいテーマ「短歌で心を元気に、そして、平和な世の中に」に通じる便りと言える。

■希望ある未来を

 平和な世を願い、高田さんはこう詠んだ。

 「ちゃんと目を合わせてしようたまきわる青が滅んだ海のはなしを」

 一人一人がきちんと向き合い話し合えば、戦争は無くなる。子どもたちのために、青い海も残せる。そんな1首だ。

 もう1首。

 「いつの日か出逢(あ)うあなたのために買うレオ・レオニの郵便切手」

 アーティストの“レオ・レオニ”による絵本『スイミー』は小さい魚が集まって大きな魚に立ち向かう話。“あなた”に希望ある未来を重ね合わせた。独裁者を前に、知恵と勇気を身につける者たちを思った1首だ。

 最後に、高田さんは記者にこう語った。

 「平和のツールとしても短歌は有効。私は、本気でそう信じています」

 たかだ・ほのか
 大阪府出身、在住。関西学院大文学部卒。テレビ大阪放送番組審議会委員。小学生の頃、少女漫画のモノローグに魅了されたことがきっかけで、短歌の創作活動を開始。2015年に未来短歌会へ入会、加藤治郎氏に師事。18年に『100首の短歌で発見! 天神橋筋の店 ええとこここやで』刊行。監修した『基礎からわかる はじめての短歌 上達のポイント』は21年に刊行した。大学、カルチャースクール、企業での講義、講演を通して短歌の裾野を広げている。現在は、関西の社長へのインタビューを精力的に続け、大阪・関西万博が開催される25年に向けて「100人100首」の歌集作りを進めている。


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