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大阪・道頓堀にあるピップの時計台 |
ピップエレキバンは今年で発売50周年。「会長、どうぞ」と俳優の藤村俊二さんが声を掛け、横矢勲会長(当時)が「ピップエレキバン」と答える。そんなテレビCMが視聴者の目を引きつけ、続く樹木希林さんと横矢会長の掛け合いも流行した。かくして、磁気治療器市場の7割を占めるほどの“超長寿商品”になったわけだが、次の50年、100年に向けた道のりは険しい。製造元のピップ(大阪市中央区)を訪れ、松浦由治社長(64)に来し方、行く末を聞いた。それではインタビューを始めます。「社長、どうぞ」
1972年、ピップエレキバンを発売したが、最初の5年ぐらいはなかなか売れなかった。私は88年入社のため、発売当時を知る現会長から聞いた話になるが、その頃は社員が薬局をくまなく回って、店頭に置いてもらっていた。しかし売れ残って、返品と納品を繰り返す日々。相当苦労していたようだ。
ところが、CMが放映されると、「何だ、これ」と話題になって売れ始めた。「会長、どうぞ」のセリフは小学生の間で流行し、学芸会でもまねされるようになった。高校生だった私は、このCMを前にひとひねり、ふたひねりしてあると感心していた。
確かに、テレビの影響力はすごかったが、それまでの営業努力があったからこそヒットした。商品力もあったので、お客さんに喜んでもらえたと思う。戦争の古傷に悩まされ、わらにもすがる気持ちでピップエレキバンを貼ったら癒やされた。そう記された礼状が菓子折りと共に会社へ届いた逸話が残っている。
ピップエレキバンを開発した元専務の矢崎誠一さんが本を書いている。タイトルは『ビジネスのツボに効く ピップエレキバン商法』(第三書館発行)。そこに紹介されたエレキバンの大きさのことが興味深い。こう記してある。
「エレキバンの大きさというのは、どのようにして決めたかというと、五円玉。あれ(磁石)は、五円玉の穴の大きさなんです。そして外側のバンソウコウが五円玉の外周の大きさなんです」
「というのは、この世の中で、何億個も流通してるものと言ったら、やっぱり貨幣でしょ。貨幣というのは、人間がもちやすいようなサイズになっとるわけです。扱いやすいような」
五円玉だから、ご縁があるようにという思いもある。しかし、実際の開発現場は試行錯誤だった。
バンソウコウを貼れば、肌がかぶれてしまう。接着力を弱めれば、逆に、はがれやすくなる。まさに二律背反だが、素材メーカーと共に研究し、改良を重ねてきた。磁石についても顔が映るくらい磨き上げている。光沢を失わないようにしなければ、偽物と思われてしまう。それだけ、ピップエレキバンはこだわりの強い商品だ。
昭和30年代の磁力ブームで、磁力を使ったブレスレットが売れていた。そこに注目し、我が社は自前で取り組み、ピップエレキバンは誕生した。医療機器として厚生省(現・厚生労働省)に認可されたのが1972年9月12日。あと4カ月で、50歳の誕生日を迎える。100歳、200歳まで寿命を伸ばしていければと思う。
磁気治療器市場の7割を占めるほどになったピップエレキバンだが、肩こりの解消など血行を改善するツールとして考えると、マッサージ店、マッサージチェアや入浴剤も競合相手だ。だからこそ、全てのお客さんに喜んでもらえるよう常に努力しなければいけない。ピップエレキバンを肩に貼るだけでなく、バンド式で足裏に当てる新商品を提供するなどバリエーションを広げている。
臨床試験では証明されているが、今後は、ピップエレキバンはなぜ効果があるのかというエビデンス(根拠)も明確にしていきたい。整体院などでの治療後に使用してもらうようになれば、ピップエレキバンのステータスも上がる。
もともと、年配者に人気がある商品だが、若い人が部活動の後に貼っていると聞く。おそらく、家庭で代々受け継がれているのだろう。お客さんとの接点を広げることで、若年層にも浸透させたい。
実は、30年ほど前、米国市場への進出に挑戦したことがある。駐在員まで決めていた。結局、FDA(食品医薬品局)から医療機器としてのOKを得られなかったが、今後は、東南アジアにも活路を求めていきたい。
先日、ラジオ番組で「Z世代」と対談した。生まれた時からインターネットの恩恵にあずかる世代で、90年代後半から2000年代前半に誕生した若者たちのことだ。17歳の女子高校生は不登校だったが、堀江貴文さん主宰の高校に入学したことで、将来は渡米して社会に役立つ仕事をしたいという夢を描いていた。19歳の男子大学生も環境問題に関心を持ち、同じように社会に役立ちたいと話していた。
彼、彼女たちが一つのことをうのみにせず、幅広く情報収集していたことに驚いた。今の若者は安定志向だと言われているが、そんなことはない。尖(とが)った人間になり、世界で活躍したい夢を持っている。
今春、ピップにも若い社員が入った。どんどんチャレンジしてほしい。我が社は他社と違ったことに挑戦し、業界に先駆けていろいろなことを実践してきた点が強みだと思っている。
新型コロナウイルスの流行で、世の中は変わった。これまでやってきたことが通用しなくなった。私としては70歳の定年までに、新たな収益源をしっかり整え、次世代の経営陣にバトンタッチしていきたいと思っている。
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