Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

大阪商工会議所会頭 鳥井 信吾さん

2022年6月2日

万博に向けて発展を 天神祭に強い思い

「船渡御へ 見せて浪速の 土性骨」と刻まれた大阪天満宮境内の句碑

 大阪商工会議所の新会頭に、鳥井信吾さん(69)=サントリーホールディングス副会長=が就任した。実は、鳥井さんはサントリーの奉拝船に乗って「大阪締め」を交わすなど天神祭との関わりが深い。新型コロナウイルス感染拡大のリスク回避のため船渡御や奉納花火が3年連続で中止となる今夏の天神祭だが、「大阪の観光と結びつけていく」と就任会見で語っていた。天神祭への思いを聞くとともに、祖父の鳥井信治郎さん(1879〜1962年)=サントリー創業者=の口癖だった「やってみなはれ」を受け継ぐ姿勢についてもインタビューした。

■参加型が魅力

 天神祭は千年以上の歴史がある。経済界や大阪市が提唱する「水都大阪」で最大の祭りだ。江戸時代から、京都の祇園祭、江戸(東京)の山王祭あるいは神田祭と並んで、天下の三大祭りの一つと言われてきた。

 その天神祭を祭礼とする大阪天満宮(大阪市北区)の近くを流れる大川で繰り広げられる船渡御は、船と船がすれ違う際に大阪締めを交わす。船の客と沿岸の客が交わすこともある。

 「打ちま〜しょ」でチョンチョンと2回手を打ち、「もひとつせ〜」でチョンチョンとまた2回打ち、「祝(いお)うて三度」でチョチョンがチョンと3回打って締める。まさに参加型のユニークな祭りであり、この点をもっとアピールしてもいいと思う。

■地域の財産

 天満宮の祭神菅原道真公の神霊を乗せた御鳳輦(ごほうれん)船は船団の中心に位置し、その様子は厳粛だ。インバウンド(訪日外国人客)にとっては興味深く、話題になり得る。

 と言うのも、道真公は宮廷(京都の中央政府)で宇多天皇の信任が厚く、右大臣になったが、左大臣の藤原時平ら藤原一族の排斥によって九州の太宰府に左遷され、亡くなった。その後、時平の関係者が相次いで亡くなり、干ばつも続いたことで、道真公の怨霊のたたりとされた。学問の神として有名な道真公だが、もともとは怨霊の怒りを鎮めるための神として祭られた。

 阪神大震災、リーマンショック、東日本大震災、新型コロナ禍、ウクライナ危機など近年の天変地異や異常事態を踏まえれば、畏敬の念を覚えると同時に、道真公にお祈りせずにはいられない。そう考えると、天神祭はストーリー性が高く、コンテンツは地域の財産だと思う。

■リオに匹敵

 御鳳輦船やお供をする供奉(ぐぶ)船が大川の上流へ進み、飛翔(ひしょう)橋で神霊を迎える奉拝船が川を下っていく景色は絵になる。大川の水面(みなも)に映る船の明かりも、そこに集う若い人たちの浴衣姿もインスタ映えする。

 私が子どもの頃、母方の祖母に連れられて天神祭に行き、船渡御などの風景を描いた思い出がある。今、絵がどこにあるか分からないが、夏祭りの季節を迎えると、記憶がリフレインする。

 サントリーの奉拝船にも乗って大阪締めを交わした。天神祭の食といえば、ハモの落としは印象的だ。天神祭は、ブラジル・リオのカーニバルに匹敵するぐらいの可能性を秘めているのではないか。

 今夏の天神祭は3年連続で規模縮小になった。仕方ないが、大阪・関西万博が開催される2025年に向けて発展してほしい。

■「やってみなはれ」

 をやる

 大阪商工会議所として「やってみなはれ 中小企業チャレンジ支援プロジェクト」を始めた。

 中小企業が苦境を乗り越えるため、新規事業の創出や既存のビジネスモデルの革新、生産性向上などの新たな挑戦を「やってみなはれ」と後押しする。そのための支援事業を22年度上半期に集中支援する。

 内容は、新事業創出のための実践型ワークショップ▽企業PR動画制作支援サービス▽中小企業の「稼ぐ力」向上セミナーと専門アドバイザーとの交流会▽専門家による収益力改善支援▽調達先確保・販路拡大強化月間▽中小企業デジタルエキスポ−など。

 「やってみなはれ」は、サントリーの創業者である祖父鳥井信治郎の口癖だった。「やってみなはれ」をやる。これが私の会頭就任の抱負だ。

■背中を押す

 祖父は弱冠20歳で独立開業した。松下幸之助さん(1894〜1989年)が松下電気器具製作所を創業したのは23歳。スティーブ・ジョブズさん(1955〜2011年)も21歳でアップルを創業している。

 みんな20代で会社をつくっているわけだから、そこに支援しないと本当の意味での経済の未来はない。しかし、当時と違うのは経済がしっかり出来上がっているため、若い人が入って行くのは並大抵ではない。それでも、若い人たちの背中を押すことができないかと思う。

 大企業は新入社員などの若手研修を充実させているが、中小企業の場合、同期生の人数が少ないため、研修は企業間の連携も必要になってくる。大切な視点は、十把ひとからげではなく、それぞれの個性を尊重することだ。人種、性別、年齢、信仰などにこだわらず、多様な人材を生かし、最大限の能力を発揮させる「ダイバーシティー」の考えだ。

■大阪の文化

 「やってみなはれ」は祖父の口癖だが、そういう言葉を発することができる文化が大阪にはあったのだと思う。だから、私は「やってみはなれ」をやる。

 とりい・しんご
 1953年、大阪府生まれ。甲南大理学部卒、南カリフォルニア大大学院修了。83年にサントリー入社、2014年からサントリーホールディングス副会長。サントリー芸術財団代表理事、サントリー美術館館長、サントリー文化財団理事長、サントリー生命科学財団評議員会長。大阪青年会議所理事長や関西経済同友会代表幹事を歴任。天神祭渡御行事保存協賛会名誉会長。
 【大阪人の土性骨】
 「船渡御へ 見せて浪速の 土性骨(どしょっぽね)」と刻まれた句碑が大阪市北区の大阪天満宮境内に立つ。実は、この句碑は大阪商工会議所と縁が深い。
 昭和40年代のオイルショックによる資金不足で、天神祭の渡御行事が中止に陥った際、当時の大阪商工会議所会頭だった佐伯勇氏(近畿日本鉄道会長)が「これや」と句碑に注目。この句をタオルに織り込んで経済界に配り、天神祭の復活を支えたエピソードが残っている。
 句の作者は、大阪で俳誌「大樹」を主宰した北山河氏。末尾に用いた「土性骨」は大阪人の心意気だろう。


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