Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

ランスタッド日本法人会長兼CEO ポール・デュプイさん

2022年6月27日

人材派遣は信用第一 「第二の故郷」大阪に熱い思い

 人材派遣大手「ランスタッド」日本法人(東京)の会長兼最高経営責任者(CEO)に昨年就任したポール・デュプイさん(54)は、カナダ生まれ。日本は第二の故郷であり、特に大阪への思いは熱い。若い頃にバックパッカーとして初来日し、西成暴動に遭遇した記憶は鮮明だ。その後勤務した大阪の私立学校で留学プログラムに関わり、「マッチング」に専念。その経験が現在の仕事につながっている。「教育も、人材派遣も、信用が第一」と説くデュプイさんの人となりに迫った。

■4回目の来日

 「ただいま」と社員にあいさつしているところだ。

 私は2013年にランスタッドの日本法人に入社した。17年にインド法人の最高執行責任者(COO)となり、同CEOを経て昨年7月に日本法人の会長兼CEOに就いた。実は、日本訪問はこれで4回目になる。

■行くなら…

 人生最初の来日は、カナダのウィンザー大社会学部を卒業して間もない1990年9月だ。

 私は4歳からアイスホッケーに明け暮れていた。アイスホッケーは「氷上の格闘技」であり、同じ格闘技系のアメリカンフットボールも好きだった。カンフー映画『燃えよドラゴン』のブルース・リーにも憧れ、日本の空手に興味を持った。学生時代に自動車メーカーの溶接ラインで働いて貯金し、日本に来たわけだが、訪問先に大阪を選んだのは訳がある。

 カナダの図書館で、日本について調べていると、大阪・道頓堀のグリコサインの看板が目に留まった。大阪の人はよくしゃべり、笑い、飲み、ものをはっきり言うと記されていた。京都や奈良に近く、伝統的な日本がここにはある。行くなら東京でなく、大阪だと考えた。

 バックパッカー(低予算の個人旅行者)として大阪に到着し、西成の公園のベンチで休んでいると、目の前で暴動が起きた。90年10月の西成暴動。警察署が標的になっていた。びっくりした。なぜこんな暴動が起きるのか、知りたいと思った。日本への興味は増していった。

 当時は大阪・西田辺の空手道場に通い始めた頃で、友達ができて楽しくなっていた。6カ月の短期滞在予定だったが、日本を好きになり、就職活動のための特定活動ビザを取得し、英語教師として5年間滞在。いったん、カナダに戻って、サイモンフレーザー大大学院教育学部の教育学専攻を修了し、98年に再来日した。

■ベストマッチ探る

 この年の4月に就職した先は大阪薫英女学院(大阪府摂津市)。私は海外(日本)に出て成長したので、日本の若い人たちに海外体験の素晴らしさを伝えたかった。留学プログラムの責任者として、生徒と海外の学校、ホームステイ相手の「ベストマッチ」を探った。その際、重要視した点は、留学先が安全であり、成長できるところであることだった。生徒の保護者にすれば、大切な子どもを遠くに送り出すことに不安がある。このため、私は現地をしっかり下見し、約束を守ることを心掛けた。留学先に対しても約束事を守るよう促した。

 人材派遣も、求職者と求人企業をマッチングする仕事だ。私としては、求職者が派遣先の企業で安全、安心に働けることを重要視している。企業は派遣社員との約束を守らなければ、事業を発展、拡大することはできない。つまり、教育も、人材派遣も、信用が第一というわけだ。

 ランスタッドの日本法人は90拠点あり、社員は約3千人。働き方としてスーパーフレックス制度を導入している。所定の期間内で総労働時間や日数を満たせば、働く日にち、時間、場所を自由に決められるが、同時に、社員は責任も持つことになる。約束を守らなければいけない。約束を守り続けることが信用につながっていく。

■人生のキーワード

 大阪薫英女学院の頃に話を戻すと、2005年1月に退職した私は、人材派遣のウォールストリートアソシエイツに入社した。東アジアを中心としたグローバル展開に取り組み、赴任先のシンガポールでプロジェクトの推進力を評価され、ランスタッドの日本法人に入ることになった。これが3回目の来日だ。その後のインド赴任を経て4回目の来日となり、通算15年間、日本で暮らしていることになる。

 日本法人の会長兼CEOとして、大変な時こそ出番だと考えている。信用されるリーダーは現場の近くにいるものだ。現場が大変な時に支える。これは、教師だった私の父親やアイスホッケー、空手の指導者らから学んだことだ。

 私はインドで働いていた頃、標高4千メートル超のヒマラヤでアイスホッケー大会を開催し、ギネス記録保持者になった。カンボジアで井戸を掘るボランティア活動も続けている。人生の前半は自分の成長、成功、出世を意識していたが、後半は社会貢献、人の役に立つことに努めたい。

 「do well」「do good」。これが人生のキーワードだ。

■市場に伸びしろ

 最後に、日本の人材派遣業界の現状について話す。日本の人材市場が直面する課題は少子高齢化による人材の確保だ。日本は正社員を選ぶ人が多いが、一つの会社で働き続ける姿を想像できず、いろいろな会社で働くことを望む若者は少なくない。米国などは派遣や契約、ギグワーカー(単発の仕事を受けて働く人)といった働き方を選ぶ人の割合が大きくなっている。

 新しい働き方で考えると、日本市場は伸びしろがあると考えている。

ポール・デュプイ
 1968年、カナダのオンタリオ州生まれ。ウィンザー大社会学部卒、サイモンフレーザー大大学院教育学部教育学専攻修了。98年4月〜2005年1月、大阪薫英女学院勤務。人材派遣ウォールストリートアソシエイツを経て、13年9月、ランスタッド日本法人に入社。21年7月、同会長兼CEO就任。
 【ランスタッド】
 人材派遣大手。本社はオランダ。世界38カ国・地域で事業展開。2020年の収益は2兆8千億円。


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