亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

キョンシー(中国)

2019年10月21日

死後硬直した死体が動く

「実際のキョンシーは下着姿か半裸である」(イラスト(C)合間太郎)

 昔、キョンシーの映画が大ヒットしたのを覚えている人は多いと思う。ホラーでありながらカンフーの技で怪物を退治していく痛快な娯楽映画だ。キョンシーとはミイラ化した死体であって、キョンは「固い」、シーは「屍」の意味を持つ。つまりは死後硬直した死体なのである。映画の中で手を伸ばしてピョンピョンはねるのは、膝や腕が曲がらないからだ。中国の標準語(普通話(ぷーとんふぁ))読みでは「チャンシー」と発音し、広東語などの南方音では「キョンシー」と呼ぶ。

 映画での服装が、官僚が身に付ける官服官帽姿だったのは、官僚経験者は生前の服装で埋葬されることになっていたからだ。と言うことは、映画のキョンシーは、死んだ元官僚がよみがえった姿と言えるだろう。本来のキョンシーは正式に埋葬されず、共同墓地の隅っこや空き地などで仮安置された死体がさまよい歩くもの。

 そう、この「仮安置」というのが問題なのだ。数あるキョンシー話のほとんどは、きっちり埋葬された墓地からはい出してくるのではなく、その辺に捨てられたり、家の中にとりあえず寝かせておいた死体が動きだす。中国でキョンシーは、よく知られた忌み嫌われる妖怪であり、映画「霊幻道士」のヒット中でも正月は上映をひかえたそうだ。

 「霊幻道士」の何作目だったか、キョンシーを歩かせて故郷へ連れて帰るシーンがある。当時は、遠方で死んだ者は故郷で埋葬する風習があったようで、この呪術を「?屍(かんし)」と呼んだ。映画では何体も運ぶのは重いので死体を歩かせて、その引率役を霊幻道士が担っていた。

 キョンシーは「※尸(きょうし)(屍)」と書く。※尸信仰は古くから広東など中国南部に広まっていて、すでに映画がヒットする下地が香港にはあったのだ。大人も子どもも楽しめた映画「霊幻道士」。どこかで新作を作ってくれないかなぁ。

 (日本妖怪研究所所長)

 ※は僵のイが歹



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