亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

レーシー(ロシア)

2019年12月2日

森の精霊は日ロ共通?

「獣たちを守る森の支配者、レーシー」(イラスト(C)合間太郎)

 ロシアには広大な森林地帯があり、人々は森から材木やまき、食料など、生活に必要なものの大半を手に入れていた。しかし、森で生活の糧を手にするには、森の支配者レーシーとの関係を良好に保つことが重要である。レーシーは森の獣や植物、キノコに至るまで、生あるものすべてを統率し、守っているからだ。

 レーシーは森の中で不届きなことをする人間には制裁を加え、正しい行いをする者には、家畜を操る帯をくれたり、赤ちゃんのゆりかごをゆすってくれたり、お産や、こまごましたことを手伝ってくれたりする。

 レーシーに会わないようにするには、服を裏返しにしたり、靴の中敷きを左右逆にするといい。また、レーシーの姿を見るには、股のぞきの姿勢でのぞくと見える。この辺りは日本と似ている。日本でもあちらの世界はすべてが逆。名前も訓読みを音読みに言い換えて、ヤマモト(山本)をサンモトと言ったり、服を逆に着たり、股のぞきで反対の視線で見たりする。真逆の異界を見るには、人間の方が逆さまになる必要があるのだ。

 また、魔物には魔道という道があるのも共通している。レーシーの通り道と知らずに寝ていて蹴られた話はたくさんあるし、日本でも寝ているところを、幽霊や妖怪が踏みつけて通った話は多い。レーシーから逃れるには、アザミやヒイラギのようなトゲのある茂みに逃げ込むとよい。これも日本と同じである。

 レーシーはよく知られた森の精霊で、巨人だったり、全身モミの木でできていたり、その姿はさまざまであるが、共通するのは森という異界への尊厳であり、畏怖である。

 改めて思うに、このことをわれわれは忘れ過ぎていないだろうか。今更ながらに環境問題の根本は、この辺にあると思う方がいいかもしれない。レーシーの振る舞いを見ていると、人間の、テリトリーへの謙虚な自覚をうながしているように思えて、仕方ないのである。

(日本妖怪研究所所長)


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