亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

スフィンクス(エジプト)

2019年12月16日

エジプト魔術を守る沈黙の神獣

「誰もが知り誰もが知らない、謎の巨獣」(イラスト(C)合間太郎)

 エジプトの三大ピラミッドと、それを守るかのように鎮座するスフィンクスは、エジプト観光に欠かせないスポットだ。現在はスフィンクスの全体像を見ることができるが、紀元前14世紀頃までは大半が砂に埋まっていた。三大ピラミッドより古いという説があるくらい、誰がいつ建造したのかわからぬ芸術品なのである。名前の語源はギリシア語の「きつく縛る」という意味で、スフィンクスから見つめられると金縛りになるからである。

 13世紀のアラブの著述家、アブド・アル・ラティフは「この像について一言の記述もなかった真の理由は、それがかもしだす恐怖であった」と語っている。アラブ人はスフィンクスを、アブル・ハウル(恐怖の父)と呼んだ。13世紀頃は、まだ赤いニスで光り輝く頭部を持ち、全身もかなりカラフルに彩られていたようである。

 また、スフィンクスの謎かけは有名で「最初は四つ足、それが二本足になり、最後は三本足になるものは何か」「姉が妹をあるいは妹が姉を生むが、それは何か」というもの。答えを言うと、前者は「人間」後者は「昼と夜」である。この問いに答えられない者はスフィンクスの爪で引き裂かれた。

 エジプトはかつて太陽神ラーをはじめ、神々の国であった。スフィンクスも太陽神と言われた時期があった。だが、今やエジプトはイスラム教徒の国である。古代の神々はもうエジプト人が信仰する神ではない。かろうじて空港や街のみやげ物売り場のキャラクターとして、にぎわいを見せるのみである。祀(まつ)られることのない神の末路は切なく悲しい。

 スフィンクスはひとつの岩を削って作ったものとしては、世界最大級の彫刻である。ということは、岩の中にすでに存在していたスフィンクスを、削って取り出したと考えてもいいわけだ。スフィンクスの秘めたるエネルギーが、いつの日か開放され、人間がすでに魔物と化したこの世界に咆哮(ほうこう)を響かせる日を夢想する。

(日本妖怪研究所所長)


サイト内検索