亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

ベルフェゴール(ヨルダン、イスラエル周辺)

2020年4月6日

屈辱の便器に座る魔神

「本来は発明と知恵の神なのですが」(イラスト(C)合間太郎)

 今回は、この時期にピッタリ(?)の魔神「ベルフェゴール」について書く。

 『旧約聖書』の民数記第25章に出てくる「ペオルのバアル」というモアブ人の神が、ベルフェゴールの前身と言われている。第25章の主な内容は「ヤハウェの神は、イスラエルの民がモアブの娘たちと食事をし、みだらな事をするのに激怒して疫病を蔓延(まんえん)させた。そしてバアルを拝んだ者を殺せと命じ、エレアザルの子ピハネスが、ある男の背から女の腹までヤリを突き通し、ようやくヤハウェの怒りは収まった。がすでに2万4千人が疫病で亡くなった後であった」というもの。バアルは昔からモアブ人に崇拝されていたので、ヤハウェはそもそも気に入らなかったのだろう。ヤハウェにとって他の神はすべて邪神邪教であり、みだらとも見える民衆の土着の祭りや信仰を嫌う。

 本来のベルフェゴールは、発明が得意な知恵の神であり、聡明(そうめい)な美女の姿で現れることが多い。しかし、よく見かけるベルフェゴールの絵は、発明の神だからか、自作の車輪付き移動式便器の上に座る、醜悪な悪魔の姿で描かれる。発明や機械が得意という特徴を、ここまでねじ曲げられてはベルフェゴールがかわいそうだ。しかも屁の神と同一視されたりして、踏んだり蹴ったりである。疫病は、この不潔な悪魔が元凶と言いたいのだろう。

 また、ベルフェゴールは「真の意味での幸せな結婚」を見つけに世界中の結婚生活を見て回ったが、そんなものはどこにもなかったという伝説もある。ベルフェゴールという言葉を「人間嫌い」という意味で使うゆえんであろう。

 私は移動式便器に座るベルフェゴールとロダンの「考える人」のイメージが、ついダブってしまう。彼はこうなってしまったことを、考えに考え、それでもなお考えるのである。

 疫病をまき散らす汚名をそそぐ日は、ベルフェゴールに、果たして来るのだろうか。

 (日本妖怪研究所所長)



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