亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

ヴィイ(ウクライナ)

2020年5月4日

まぶたが重い、上げてくれい

「まぶたは床まで届き、鉄でできている」(イラスト(C)合間太郎)

 ロシアの文豪ゴーゴリが著した『ヴィイ』を読んだ人は少ないと思うが、映画を見てその魅力に取りつかれた人は多いと思う。日本では「妖婆 死棺の呪い」というタイトルのロシア映画だ。

 そのクライマックスは、神学校に通うホマーが、死んだ魔女の祈祷(きとう)を古びた教会で三晩続けて行うシーン。恐怖の一夜目は、魔女が棺から起き出してホマーを探す。ホマーは床に輪を描いて、習い覚えた悪魔ばらいの呪文を必死で唱える。すると魔女は輪の中のホマーが見えないらしく、ホマーに触れることもできない。そうするうちに一番鶏が鳴き、朝を迎え、魔女は元に戻った。

 二晩目は、魔女が呪文を唱えると教会内に風が吹き荒れ、扉に魔物たちが押し寄せてくる。しかし、彼の描いた聖なる輪によって、この夜も魔女はホマーを見つけることができなかった(でも神学校の中で彼は劣等生なのです)。

 そして三夜目。そこにたくさんの魔物とヴィイが登場する。ヴィイの姿は全身まっ黒な土にまみれ、長いまぶたは床まで届き、顔は鉄でできている。まぶたが重すぎるので、他の魔物が持ち上げてやると「ここにいる!」とヴィイは鉄の指でホマーを指さし、居場所が知れて大勢の魔物がホマーに飛びかかる。そのとき鶏が鳴いて朝を告げるが、もうそれは二番鶏で外はすでに明るくなっていた。あわてて戸口に魔物が殺到したが、日の光に当てられ、魔物たちは扉や窓にこびりつき死骸となった。

 この原作の中で魔女の描写は「死んだ娘の際立った美しさは恐ろしいばかり。彼女の顔に死人の曇ったところは少しも見られない」とあり、映画の魔女役、ナターリア・ヴァルレイはこのとおりの美しさで今なおファンが多い。

 ヴィイという化け物は東スラヴ神話に出てくる死の目を持つ怪物で、ヴィイが見たものは死に至り、まわりの物も視線によって破壊し灰にする。ウクライナには他にも土着の名作怪談がある。機会を見ながら紹介したい。

 (日本妖怪研究所所長)



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