亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

トルンガルスク グリーンランド/カナダ(チドリー岬)、アメリカ(アラスカ州)

2020年7月14日

エスキモーを救う精霊

プーさんみたいだけど、怒るとこわい(イラスト(C)合間太郎)

 近年、アラスカで1300年以上前の白クマの頭蓋骨が見つかった。頭蓋骨から推定すると、後ろ足で立った姿は4メートル以上になり、体重は600キログラムもあるという。今回は、そんな巨大な白クマを連想させる北極グマの精霊「トルンガルスク」をご紹介しよう。

 この怪物は、氷雪地帯に住むエスキモー系民族のひとつ「イヌイット」に信じられてきた。熊の姿をしているが、時には片腕の人間や手の指ぐらいの小人として描かれることもある。

 また、グリーンランドでは病気になると、トルンガルスクに助言を求めると言われており、その仲介役が魔法使いのようなシャーマン「アンゲコック」だ。トルンガルスクはアンゲコックにしか見えない。彼はトルンガルスクに治療法を聞くことによって、人々の心や体の病を治す。

 アラスカや、カナダのチドリー岬では、トルンガルスクのことをばかにしたり、敬うことを忘れると狩りの邪魔をされる。その場合も、勇敢なシャーマンがトルンガルスクの説得にあたると言われている。

 イヌイットの狩りは、アザラシが氷の割れ目から顔を出すときを狙う。アザラシは呼吸するために、海面に上がってくるのだ。このアザラシの習性と、狩りの仕方をイヌイットに教えたのもトルンガルスクと言われている。この良好なトルンガルスクとイヌイットの関係は、今も続いているのだろうか。イヌイット(エスキモー)の社会も都市化して、狩りをしなくてもスーパーで肉が買えるようになったと聞く。

 時代は変わる。それもまた良し。問題は、歴史や民俗から幸せな社会を築くヒントを探ること。となると、けっこう過去の社会の方が、魅力的に見えたりするんですけどね。

 (日本妖怪研究所所長)



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