亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

温元師(中国)

2020年7月27日

疫病退散の神も失点?

疫病退散の神様、今こそお願いします(イラスト(C)合間太郎)

 「泰山府君(たいざんふくん)」と言えば、安倍晴明などの陰陽師(おんみょうじ)が行う「泰山府君祭」を思い浮かべる人がいるだろう。泰山府君とは泰山の神、東岳大帝(とうがくたいてい)のことで、この神は死者の魂を管理する。それゆえ泰山府君祭も死者をよみがえらせる秘術なのである。その東岳大帝のお供をする神が、今回の「温元師(おんげんすい)」だ。中国の杭州では毎年5月に温元師の像を担いで、街中を巡幸したと言われるほどポピュラーな神様で、それは何のおはらいかと言うと「疫病退散」なのである。

 さて、今から200年ほど前、当時の海寧(かいねい)県、現在の浙江省の東の村で、数百アールにわたって稲が踏まれたように倒れていた。今なら原因不明のストーンサークルと言われるだろうが、それを温元師と地元の神様、彭公(ほうこう)と呉公(ごこう)のけんかの跡だと村人は言う。というのは「疫病が広まっても温元師が怠慢で、感染を拡大させる鬼、疫鬼(えきき)を野放しにしたからだ」と地元の神、彭公と呉公は言うのである。それに怒った温元師は「人の運命は天の神が定めるもの。自分に何ができる」という驚きの発言をしてけんかになり、稲が倒れストーンサークル誕生となったのだ。彭公と呉公は元は湖南の人で、太平天国の乱(1851〜64年)において海寧の地を守り、戦死したその後、2人は神として祀(まつ)られた。きっと勇ましい男たちだったのだろう。

 道教で温元師は、護法四聖のうちの四代元帥とされるえらい神様だが、そんなのおかまいなしに彼らは食ってかかった。この事件は、もともと広範囲にわたって稲が踏み荒らされ、ストーンサークル状態になったのを、いつのまにか温元師の職務怠慢にすり替えて、各県城(県庁所在地)に送られたニュースらしい。

 原因不明な出来事を神様のせいにするなんていかがなものか。今はアマビエさんが疫病退散のシンボルだけど、誰も職務怠慢とは言わないよね。

 (日本妖怪研究所所長)



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