亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

フンババ(イラク)

2020年8月24日

人類史上、最初の環境破壊か

守るべき森の守護神、フンババ(イラスト(C)合間太郎)

 現在、環境問題がとやかく言われるが、なんと紀元前1759年頃には、すでに環境破壊が行われていた。それは、その頃に作られた『ギルガメッシュ叙事詩』に記されている。当時のバビロニア人にとって、伝説のギルガメッシュは最も偉大な王であり、彼は「人間」という存在のさまざまな問題について考えたのである。人はなぜ死ぬのか。人は、神や動物とどう違うのか。政治や軍隊は、どのような倫理で運営されるべきなのか、など。

 ギルガメッシュの友として、野人エンキドゥが登場し、森の番人である「フンババ」を殺し、杉の木を奪う。フンババは奇妙な宮廷に住む王であり、木々の生命力の象徴である。その叫びは洪水のごとく圧倒的で、甲高く、牙の生えた口からは火を吐き、息は死をもたらす。足跡は巨大で顔はシワだらけで醜い。ギルガメッシュとエンキドゥは「文明化」の名のもとに森の統治者フンババの首を落とし、資源である木々を奪う。

 日本でも古代から江戸時代にかけて、エネルギー源の多くは石油でも石炭でもなく、森の木々だった。奈良時代、都市のエネルギー確保のために森林伐採を行った結果、ハゲ山だらけとなって都を移したという、地理学の学者が言う説には説得力があり、確かなことと思う。

 叙事詩の中でエンキドゥはギルガメッシュに問う。「友よ、われわれは森を荒れ地に変えてしまった。故郷で神にどう答えたらいいのか」と。神はフンババの虐殺を罪と見なし、それが元でエンキドゥは死ぬことになる。

 森を失うことで引き起こされる土砂崩れや動植物の生態系破壊などは、紀元前1750年に、すでに教訓として知ったはずなのに、いまだに人類はフンババを殺し続けている。強大なフンババは人類の科学力や英知ではなく、強欲によって殺されるのである。

 (日本妖怪研究所所長)



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