亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

猪八戒(中国)

2020年9月7日

人間らしい三蔵の2番弟子

八戒の人間っぽい性格が、物語をおもしろくする(イラスト(C)合間太郎)

 中国の四大(しだい)奇書のひとつ『西遊記』に登場する。原作の『西遊記』を読まれた方なら、猪八戒の言動に腹が立ったことと思う。それは三蔵法師にも言えることで、三蔵は孫悟空よりも八戒の言うことを信じて、度々一行を危ない目にあわせてしまう。この三蔵の頼りないことと、八戒の度重なる裏切り行為に読者はいらいらしてしまうのだ。

 八戒はもと天の川の水軍大将「天蓬元帥(てんぽうげんすい)」であったが、あるとき酒に酔って月の姫ジョウガに欲情し、天界の玉帝(ぎょくてい)の怒りをかい、ムチで打たれ、下界に落とされた。そのときどういうわけか、めすブタの胎内に宿り、顔はブタ、体は人間となって生まれたのである。

 「八戒」とは不殺生や不邪淫などの五戒に、化粧をやめるなどの三戒を足した八つの戒めのことである。彼がイノシシに似ていることから観音菩薩(ぼさつ)が猪悟能(ちょごのう)と名付け、八つの戒めを守る生き方をさせようと、三蔵が猪八戒と名付けた。よって彼には二つの名前が存在する。

 また、八戒は変化の術は使えるし、雲に乗って飛ぶこともできる。でも本性はなまけ者なので、悟空の邪魔ばかりしているのである。それでも一行は無事、天竺(てんじく)に到達した。苦難を乗り越えたことを如来はたたえ、八戒に浄檀(じょうだん)使者という役目を与えた。悟空や他の者は皆、仏になれたのに八戒だけはなれなかったのだ。

 当然、八戒は不平を言った。だが如来は「八戒は口は動くが体はのろまで胃袋は大きい。しかもいまだに色欲もおさまらない。そこで、仏事供養のあるときに仏壇を浄(きよ)める仕事を与えた」と言うのである。そうすれば供えられた品々を味わうことができるだろう、という何よりの配慮だったのだ。

 まあ道中、八戒は仏になれるような行いは、まったくしてこなかったので仕方ない。しかし、見方を変えれば八戒の行いは人の煩悩そのもので、それこそ「人間らしい」とも言えるのである。

 「八つの戒めを守る」と言いつつできない、人間くさいブタ、それが猪八戒なのである。

 (日本妖怪研究所所長)



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