亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

ベルゼブブ(イスラエル周辺)

2020年9月21日

ハエの姿をした悪霊の頭

超強力な地獄王国の最高君主(イラスト(C)合間太郎)

 悪魔の中でも別格の実力者、ベルゼブブ。『新約聖書』での記述も多く、マタイ伝12章24節には、人々がイエスに向かって「この人はただ、悪霊の頭ベルゼブブの力で悪霊どもを追い出しているだけだ」とあり、マルコ伝3章22節には、「彼はベルゼブブに取り憑(つ)かれている」「悪霊どもの頭によって、悪霊どもを追い出している」と言われている。同様にルカ伝11章15節にも、イエスは「悪霊どもの頭ベルゼブブによって悪霊どもを追い出している」とある。同じ出来事を三者三様に記述しているのだが、どれもベルゼブブを「悪霊の頭」と位置づけていて、イエス自身も「悪霊の頭」と、同じように言うのが興味深い。

 もともとベルゼブブはカナンの民の預言神で、ハエの姿をしている。カナンの人々は獣にたかるハエの様子を見て未来を占ったのだ。しかし、決して不潔な神ではなく、神殿もきれいだったという記述がある。空を飛ぶ虫や鳥などの頂点に立つ存在と位置づけられ、作物を荒らすハエの害から人々を救うのである。

 悪魔を研究した学者たちによれば、その権力と邪悪さはサタンに次ぐと言われ、地獄の最高実力者とされている。しかしイエスが登場する前のベルゼブブが、本当に邪悪だったかどうかは疑問に思う。すでに定着している宗教に対するイエスは、一神教の革命家で、容赦がないのである。

 また、マンガファンにとっては水木しげるの『千年王国』で、悪魔くん(松下一郎)が呼び出す悪魔がベルゼブブとなっている。彼は悪魔くんに従うことなく、この世を本当の地獄のように経済も文化も、自分の都合のいいようにつくり変えてしまうのだ。

 水木しげるがなぜ、ベルゼブブの名を使ったのか、イエスがなぜ、ベルゼブブを「悪霊の頭」と位置づけたのか、両者に聞いてみたいがそれはかなわない。せめてイエスにとってのベルゼブブは、どのような存在だったのか、もう少し突っ込んだ記述を探したい。

 (日本妖怪研究所所長)



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