亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

ティンカー・ベル(イギリス)

2020年11月16日

実は鍋や釜の修繕屋さん

ディズニー以前のイメージは、こんな感じです(イラスト(C)合間太郎)

 前回はピーター・パンについて書いた。今回はその続きとしてティンカー・ベルを紹介しよう。ジェームス・バリーの原作『ピーター・パンとウェンディ』の中で、ピーターのセリフにこんなのがある。「ティンカー・ベルはティンカー(tinker)、鋳掛(いか)け屋なんだ。鍋や釜を修繕する妖精さ」。ディズニーのアニメに親しんだ方には意外と思うかも知れないが、ティンカー・ベルという妖精は、その名の通り、家の中の金物の修繕屋である。

 しかもティンカーという言葉には「旅して回る鋳掛け屋」「下手な職人」「いたずらっ子」「こまった子」という意味がある。まさにティンカー・ベルにぴったりだ。前回、ピーター・パンは「山ほど人を殺した」と書いた。ティンカー・ベルも嫉妬心からウェンディを殺そうとする。しかも原作では、一度は殺すことに成功するのである。

 良い機会なので、ここで妖精の一般的イメージも改めたいと思う。例えば日本の妖怪は、せいぜい人を驚かすぐらいで、命を取ることは、まずない(鬼の中に、人肉を食らうのがいますが)。しかし、西洋の妖精は平気で人を殺す。チェンジリングと言って、醜い妖精の赤ん坊と人の子を取り換えるのも平気でする。

 また、ピーター・パンは永遠に年を取らない少年である。つまりそれは、死んでしまった子どものことで、死者はそこで年齢が止まるのだ。ピーターが赤ちゃんの頃を描いた『ケンジントン公園のピーター・パン』で、乳母車から落ちて死んだ2人の赤ちゃんのため、ピーターが穴を掘って墓石を建て、そこに子どもの年齢と頭文字を刻むシーンがある。子どもたちが寂しくないように、墓石は必ず二つずつ並んで作るのだ。

 永遠に年を取らないピーターとティンカー・ベルは、死が、時と成長を止めることを知り尽くしているのである。

 (日本妖怪研究所所長)



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