亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

幽霊船「フライング・ダッチマン」(オランダ)

2020年11月30日

さまよえるオランダ人を救う乙女

幽霊船は船乗りのロマンである(イラスト(C)合間太郎)

 幽霊船で思うのは、ワーグナーの「さまよえるオランダ人」だろう。伝説では、喜望峰(現、南アフリカ共和国ケープタウン)を越える際に、向かい風で船が進まず、ファルデルデッケン船長が神をののしり「審判の日までかかっても喜望峰を超えてやる」と言ったことで神の怒りを買い、終わりなき航海を続けることになった。

 ワーグナーのオペラは、この伝説をもとに、オランダ人船長が「永遠に海をめぐってやるぞ」と豪語した言葉を悪魔が聞いており、そのとおりになるよう呪いをかけられ、永遠に海をさまようことになる。しかし「死に至るまでの忠誠を捧(ささ)げる乙女」と出会えたなら、呪いは解ける。だが、上陸して乙女を探せるのは7年に一度きり。

 オランダ人は、海上で出会った船の船長ダーラントに財宝を渡して気に入られ、彼の娘ゼンタに会うことになる。ゼンタは「さまよえるオランダ人」の不幸に心打たれ、毎日その肖像画を見ては彼を救いたいと願っている、まさにうってつけの女性だが、そこにエリックという彼女と結婚したがっている男がいて、オランダ人は彼の話を聞くうち、彼女に裏切られたと思い、船出する。ゼンタは自らの愛と貞節を証明するために、断崖から海に飛び込む。すると彼女の純愛のおかげで呪いは解かれ、2人は浄化され昇天する。

 実際に幽霊船は1660年以降、何度も目撃され、第2次大戦でも現れたという。船体をゆすりながら迫ってくる姿は恐怖を感じるが、しびれるほどかっこいい。しかし今、われわれは海に出なくとも、ワーグナーの才能によって、いつでも幽霊船と出会うことができる。「さまよえるオランダ人」の序章には海のロマンが凝縮されていて、船体をきしませながら迫ってくる巨大なフライング・ダッチマン(幽霊船)が、目の前に現れるのだから。

 (日本妖怪研究所所長)

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