亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

タロス(クレタ島、ギリシャ)

2021年2月22日

人類史上、最初のロボット

青銅の巨人は、今日も侵入者を監視する(イラスト(C)合間太郎)

 タロスの出典はギリシャ神話で、ペリアス王に王位継承を申し入れたイアソンが、王の「コルキスにある羊毛皮を持ち帰ったら王位を譲ろう」という言葉に従い、巨船アルゴーで黒海の東の果てへ向かう物語である。同乗するのは英雄ヘラクレスや竪琴(たてごと)の名手オルペウスもいて、最強の軍団として出航する(ヘラクレスは都合により途中で下船)。さらにそこに神々の加護が加わり、コルキスの王アイエテスの娘メディアがイアソンに恋するように、エロスの神(キューピット)に彼女の胸を矢で射抜かせて、イアソンに首ったけにさせる。

 さて、その冒険のうちの一つ、クレタ島でのエピソードに登場するのが人類史上最初のロボット、金属加工(鍛冶)の神ヘファイトスが造った青銅の巨人タロスである。クレタ島を1日3回歩き、侵入者が上陸しないように巨石を投げつけ、近づく敵は体を熱して抱きかかえ、焼き殺してしまう。このタロスにメディアが「不死になる薬をあげる」と言って薬を飲んで寝たところを、足首の血管をふさいでいる栓を抜き、血をどくどく流させて殺す。タロスには1本の血管しか通っておらず、栓を抜いたら全部流れ出たというわけだ。

 ここで学者は「なぜ青銅の巨人なのか」という疑問を投げかける。青銅は銅と錫(スズ)の合金だ。地中海周辺に銅は十分採れたようだが、錫はほとんど採れなかったらしい。そこで、アルゴー号の目的を大量の錫の持ち帰りと考えるのはどうだろうか。目的地であるコーカサス地方で錫は十分産出していたのだし、立ちはだかる青銅の巨人タロスを、錫の強奪をもくろむアルゴー号への、土着民の抵抗と考えるのもおもしろい。日本神話にはよくある土着民と制圧する天の神(天皇)側との紛争パターンである。

 神話には当時の状況を空想する楽しさがある。タロスをタロス民として、日本の手長足長(てながあしなが)や土蜘蛛(グモ)のように抵抗勢力と思ってもいいと思う。研究者や学者には怒られそうだけど。

 (日本妖怪研究所所長)



サイト内検索