亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

ストリゴイ(ルーマニア)

2021年4月5日

魔女たちの一番の仕事

夜、恐ろしい形相で徘徊するストリゴイ(イラスト(C)合間太郎)

 今から10年ほど前、ルーマニアで魔女に面会を求めたことがある。本来なら魔女の家にこちらから行くのだが、われわれはホテルに来てもらうようにした。でも、結局すっぽかされてしまった。というのは日本人旅行者が以前、魔女たちに囲まれ、一人ずつチップを渡さないと家から出してもらえない、ということがあったからそうしたのだが、失敗した。

 でもそのとき、ガイドのクリスから魔女について、おもしろい話を聞くことができた。ルーマニアの吸血鬼には「モロイ」と「ストリゴイ」の2種類があって、モロイは墓から出てくるゾンビのような吸血鬼。ストリゴイは体が墓の中にありながら、魂のようなものが抜け出て地上を徘徊(はいかい)する。血液ではなく、人の精気を吸い取るために。

 ルーマニアの魔女の一番の仕事は、ストリゴイ除(よ)けの薬を作ること。薬を家のまわりや戸口に撒(ま)き(塗り)、ストリゴイが近づかないようにするのだ。

 ストリゴイになるのは、犯罪者や自殺者、7番目の息子、猫に飛び越えられた死体など、いくつかの条件がある。魔女の薬の成分として、やはり欠かせないのはニンニクという。

 ちょうどその頃、フランスから追い出された多くの魔女たちがルーマニアに流れ着き、こまった政府が魔女に所得税をかけようとした時期でもある。魔女たちは「けしからん」と政府に呪いをかけ、それを受けて政府の要人は、紫色のネクタイと紫色のハンカチで撃退した。この応酬がニュースになるのだから実におもしろい国で、中世の雰囲気が一番色濃く残る国でもある。今も胸に杭(くい)を打たれた何世紀も前の骸骨が出土する。

 車で吸血鬼やドラキュラにまつわる場所を、あちこち案内してもらったが、魔女の家はとにかくすぐにわかる。外観がド派手でキンピカ、ハリボテのお城のような雰囲気。次はしっかりチップを用意して彼らの家を訪ねてみたい。特にトランシルバニアの魔女の家を。

 (日本妖怪研究所所長)



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