亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

シワテテオ(メキシコ)

2021年4月19日

お産の勇者の成れの果て

目を合わすと殺されるので要注意!(イラスト(C)合間太郎)

 北米南部で栄えたアステカ(1428〜1521)の人々は、お産を戦争のようにとらえ、出産を勇気ある行動と称賛していた。しかし、勇者としてたたえる一方、それが悪魔化するケースもあり、今回のシワテテオとは出産後、悪霊と化したシワだらけの魔物のことを指す。手にはカギ爪、顔はガイコツ。メキシコの遺跡から出土したシワテテオの像は、恐ろしくもありユーモラスでもある。

 シワテテオは日没後、十字路に現れ美女に化け、男をたぶらかして子が生まれると、その子は吸血鬼となる。自分の子に生き血を飲ませるために、他人の子をさらうのだ。

 世界には、やたらと吸血行為をする化け物が多いが、それは神に心臓をささげる儀式を行う地方が多かったからかもしれない。キリスト教の宗教画にも流血シーンが多く、日本人の感性とはちょっと違う。日本人の感じる恐怖は、鮮血を必ずしも必要としない。

 また、この「十字路に現れる」という特徴は、ほとんどの国に共通していて、日本では「辻(つじ)」にあたる。そこから伸びる道は、あの世へと通じる道なのだ。

 シワテテオの住処は、主にスペイン人が破壊しつくした、アステカの大神殿テンプロ・マヨールと言われているが、そこには生贄(いけにえ)の儀式を行う祭壇があり、流血がすさまじかったことが、シワテテオの伝説と重なった気がする。アステカ文明を徹底的に破壊したスペイン人への呪いが、シワテテオを突き動かしているとしたら、正当性を心ならずも感じてしまうし、地方によっては、今も十字路にシワテテオのために、トウモロコシでできたお菓子を供えるという。

 称賛されたお産の勇者が、生き血を求める醜い化け物に落ちぶれていくには、幾多のドラマがあっただろう。しかし、破壊の限りをつくされた神殿に、シワテテオを知る手がかりは乏しい。

 (日本妖怪研究所所長)



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