亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

ケツァルコアトル(メキシコ)

2021年6月28日
緑色の鳥(ケツァル)の羽毛で覆われた蛇(コアトル)の神(イラスト(C)合間太郎)

 アステカ文明の最高神ケツァルコアトルは、人類に火をもたらした神であるがゆえに、太陽神としても崇(あが)められていた。「羽毛のある蛇」の姿で、人々に文字を授ける平和と農耕の創造神なのである。敵対するテスカトリポカが、破壊と戦争の神であるのと対照的だ。

 アステカ人は生け贄(にえ)をささげる人身御供を、かなり大々的に行っていたようで、それについてもこの神は、人々に人身御供をやめさせようとした、と神話に記されている(異説あり)。またそれを好ましく思わない前述のテスカトリポカが酒に呪いをかけ、ケツァルコアトルに飲ませると彼は錯乱し、なんと自分の妹と契りを結んでしまうのだ。結果、アステカの地を追われることとなるが、この地を去るとき「私は、一の葦(あし)の年(セーアカトル)に戻ってくる」と約束する。これを今の西暦に当てはめると1519年になる。

 これはもう歴史のいたずらとしか言いようがないが、ちょうどスペイン人がアステカを征服しに上陸してきた年なのだ。残念なことにケツァルコアトルは人の姿のとき、黒髪で白い肌をしていたようで、そのときのアステカ王、モクテスマ二世は、ちょうど「一の葦の年」でもあり、スペイン人をケツァルコアトルの化身と勘違いして、征服者を手厚くもてなすのである。

 そのことがきっかけでスペイン人への対処が遅れ、あっさりアステカ文明は滅ぼされてしまう。なんと悲しい文明の最後だろう。彼らはスペイン人を歓待して、町や神殿を案内して回ったと言われ、かなり拍子抜けしたスペインの兵士たちだったが、本来の目的である殺戮(りく)と略奪に立ち返り、その目的を達するのである。

 ケツァルコアトルの平和的精神は、ここに無残に砕け散った。マヤもインカも同様の最後を遂げるが、私はアステカが一番、やりきれなく思うのである。

(日本妖怪研究所所長)


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