亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

エケネイス(ヨーロッパ全域)

2021年7月13日

船の動きを遅らせる怪魚

なあんだコバンザメかぁ、なんて油断できないよ(イラスト(C)合間太郎)

 珍しい獣や魚を怪物のように扱うことは、歴史上よくある話。大蛇や象、サイなど、今のわれわれなら子どもの頃からテレビや図鑑で知っているが、まったく無知の状態で遭遇したなら、恐怖の対象以外の何物でもないだろう。

 そんな怪物のように思われてしまった魚に「エケネイス」がある。早い話が「コバンザメ」である。「なあんだ。コバンザメか〜っ」と安心したあなた、一度、その吸盤部分を見てほしい。「背びれ」が変形して吸盤になっていて、それがムニュムニュ動く様は、気持ち悪いことこのうえない。

 彼らはその吸盤でサメやウミガメ、カジキやクジラなどに引っ付いて、おこぼれにあずかるのだ。「エケネイス(コバンザメ)」は、スズキ目コバンザメ科というグループに属し、実際にはサメの仲間ではない。サンゴ礁の周囲にいるエビや小魚を捕食する習性を持ち、サンゴの水質をキレイに保つ役割も果たす。実際に食べてみると「おいしい〜」と高評価をいただく魚らしい。また船底に大量に吸い付くと、船の動きを止めてしまうと言われる。ここでこんな声が聞こえてくるだろう。「ほんまか〜?」。

 そう、ここが現実の魚と空想の怪魚の境目で、世界中の想像力たくましい先人たちは、船に吸い付いて運航を「遅らせる」という特徴を、「物事を遅らせる」と拡大解釈して、エケネイスを早産の防止や、裁判を遅らせるためのまじないに使ったりした。

 人の想像力によって怪物となった動物や植物は、古今東西、数えきれないほどある。何事も初めての遭遇にはドラマが生まれるのだろう。

 そう言えば、エケネイスは恋のお守りに使われたことでも知られる。これは「相手に引っ付く」なのかなぁ?

 (日本妖怪研究所所長)



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