亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

インドラ(インド)

2021年7月26日

時代とともに変わる神

向かうところ敵なし、だったんだけど…(イラスト(C)合間太郎)

 妖怪の定義の一つとして、妖怪は神が零落した(落ちぶれた)もの、という言い方をする。例えば、ある地方で人気のあった水の神が、他の宗教が入り込み、水神の座を別の神に奪われたとすると、新しい宗教の信者からは、元の水神は神どころか化物にしか見えないということ。

 この図式で世界を見ると、よく当てはまるのがインド神話だと思う。バラモン教、ヒンドゥー教、仏教と、時代とともに消えていく神々、生まれてくる神々があって、その中で、常に生き続けてきた神が「インドラ」である。バラモン教の聖典『リグ・ヴェーダ』の主役であるインドラは、武神で雷神、ヴリトラという、人々を干ばつで苦しめていた悪魔を退治して、絶大な支持を受け、あっという間に最高神となるのである。

 さて時代とともに、バラモン教からヒンドゥー教へと移り、ヒンドゥーのヴィシュヌ神がインドラに取ってかわる。その頃、描かれた絵も戦闘神という印象は薄く、悪魔と戦っても負けることがあるほど弱体化した。そして、次の仏教の時代が来ると仏を守る守護神となった。仏教はその勢力を拡大する過程でさまざまな神を吸収していった。サラスヴァティは弁財天にシヴァは大黒天に、インドラは帝釈天となった。それが日本へも伝わり、フーテンの寅さんの口上「帝釈天で産湯を使い」はインドラの産湯を使ったことになる。また、帝釈天の真言は「オン・インドラヤ・ソワカ」であり、ここにもインドラは生きている。

 インドでは、時代や宗教とともに神話も新しく生まれてきた。その中で弱体化したとはいえ、インドラが残り続けたということは、体制や社会が変わろうとも、インドラを信仰する人々が無視できないほど存在したからだと思う。つまり、完全に死滅させるより、取り込む方を選んだのだろう。それはまた、インド人が古い神々を見捨てることなく、大切にしてきた証しだとも思うのである。

 (日本妖怪研究所所長)



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