亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

エロス(ギリシャ)

2021年8月9日

原初の神にして現役の神

ギリシャ神話では人間の女性に恋してしまう神、エロス(イラスト(C)合間太郎)

 エロスはギリシャ神話の愛と性欲の神である。愛と性欲がなければ人類は繁栄(繁殖)しなかったのであるから、大地の神ガイアと同じく原初の神として、混沌(こんとん)としたカオスの中から生まれた。時代が移ると美の女神アフロディテ(ビーナス)の子と言われるようになり、ローマ神話に取り入れられるとクピド(キューピット)と呼ばれ、幼子のイメージで描かれるようになる。青年エロスから幼児のキューピットへと変貌し、日本では神話から独立して、天使のイメージが定着していく。

 そのイメージを決定づけたのが森永製菓のエンゼルマークである。創業者、森永太一郎の誤解によってキューピットをエンゼル(天使)としてしまったのである。天使は基本、成人であり幼児の天使なんて本来存在しない。

 私は長年、森永が訂正するのを待っていたが、調べてみると森永太一郎だけの過ちではなさそうなのだ。エンゼルとキューピットの混同は明治初期からすでに始まっていた。浮世絵好きの方なら明治の頃の「東京日日新聞」を見てほしい。新聞名の書かれた看板を両サイドで支えているのがキューピット、いやきっと天使のつもりのモノなのだ。ちっとも愛くるしくない成人(おっさん顔)した天使に、腹も手も足も肉をだぶつかせた、幼い(?)キューピットの体。それがカラス天狗(てんぐ)の羽根を付けて飛んでいるのである。

 この他にもいくつかの文献から、森永太一郎への誤解は解けた。彼一人の思い違いではなかったのである。しかも森永は創業時、マシュマロ作りに力を注いでいて、マシュマロはアメリカで「エンゼルフード」と呼ばれていたから、エンゼルマークを商標登録する必要性があったようにも思う。ギリシャやローマの神話を知らなくても、日本の男性は挑発的な女性を「エロい!」と言うし、エロ本やエロビデオは日常語だ。エロスの神の影響は人類に根深く、今もこれからも浸透し続けていくのである。人類に愛と性欲がある限り。(日本妖怪研究所所長)



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