亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

トッカビ(朝鮮半島)

2021年8月23日

イメージの親善大使

いたずら好きのトッカビは、みんなの人気もの(イラスト(C)合間太郎)

 トッカビは朝鮮半島で最も知られた妖怪と言われ、ユーモラスな話が多い。その中から、ひとつ紹介しよう。ある金貸しの男の所にトッカビが現れ「金を貸してくれ」と言う。金貸しは相手がトッカビとわかって、試しに金を貸してやった。すると次の日、トッカビは金を返しに来たが、次の日も、そのまた次の日も金を返しに来た。金貸しは言う。「金を返すのは一度でいいのに、俺はトッカビのおかげで金持ちになったぞ」と。

 トッカビは耳が良くてその独り言を聞いて怒り、金貸しの畑を石や棒きれでむちゃくちゃにしてしまった。金貸しは少し考えてこう言った。「ありがたい。これで畑は洪水でも流されない。もしこれが、牛や犬のフンだったらどうしようもなかったところだ」と。これを聞いたトッカビは、石や棒きれをきれいに取り除いて、困らせてやろうとフンを畑にばらまいた。金貸しが「ああ、こまったどうしよう」と言うと、トッカビはもっとフンを運んできた。そうして秋がくると畑はフンの肥やしが効いて、たくさん作物が実ったという。

 トッカビは、こんなユーモラスな妖怪で、親しみを持って人々に受け入れられている。日本や中国にも類似の話はあるが微妙に違う。民族を代表する妖怪は音楽同様、その曲(話)を聴けば、はっきりとその国が感じられる。だが、どうしてそう思えるのか、これを説明するのは至極難しい。

 妖怪や民族音楽には、その地に住む人々や社会のイメージが投影されているとしか言いようがない。それぞれの国のおばけを好きになれば、その国の人がもっと身近に感じられると思う。国や地域が放つイメージの固有性については、もっと思考を深化させねばならない。当然、感性も育んでいく必要がある。

 トッカビを知ることは隣国を知ることにつながる。妖怪は「国のイメージ親善大使」に成り得ると思いたい。

(日本妖怪研究所所長)


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