亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

金角・銀角(中国)

2021年9月20日

名前の危険性を武器に

芭蕉扇(ばしょうせん)と葫蘆を持つ金角と銀角(イラスト(C)合間太郎)

 ご存じ『西遊記』の中で有名な悪役妖怪と言えば、金角と銀角だろう。実際は天界の神、太上老君(たいじょうろうくん)に仕える金炉(きんろ)の童子と銀炉(ぎんろ)の童子。つまり子どもなのだ。それが老君の宝物を五つも盗んで地上に降りると、大酒飲みの大男になるのだからおもしろい。

 彼らの宝物が物語の中で孫悟空を苦しめる。皆さんご存じと思うのが「紫金紅葫蘆(しきんこうころ)」だ。名前を呼んで返事をすると吸い込まれ、しばらくすると体がどろどろに溶けてゆく。「葫蘆には千人以上も吸い込む力がある」と、銀角が自慢するだけのことはある。悟空も一度は吸い込まれてピンチになったが、一本の毛から身代わりをつくって中に置き、「悟空もそろそろ、くたばっただろう」と銀角がフタを開けたとたん、本物の悟空は小さい虫に化けて脱出するのである。

 ここで注目したいのは、相手の名前をまちがえても、返事さえすれば吸い込まれてしまうということ。「空悟孫!」と名前をまちがえたので大丈夫だろうと、悟空が「おう!」と答えると、またたく間に葫蘆の中へ入れられてしまった。今までこの連載で、人の本名の持つ呪力について何度か書いたが、ここでも本名の呪術性がテーマとなる。この葫蘆は、名前をまちがえても返事をするだけで効力を発揮するのだから、すごい宝物だ。

 また彼らの主人、太上老君とは、かの老師を神格化したもので、4、5世紀には道教の最高神とされ、120もの童子がつき従ったという。金角・銀角もその中にいるのかもしれない。また、この葫蘆のフタとは、太上老君のお札である。

 ということで、古代中国で気やすく相手の本名を呼び合うことは、おそらくなかったはずだ。特に目上の人に対して、たとえ「様」を付けても本名を呼ぶことほど無礼なことはない。本名を他人に聞かれることは、呪術者の餌食となる危険性があるのだ。

 (日本妖怪研究所代表)



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