亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

メフィストフェレス(ドイツ)

2021年10月4日

書きつくせない悪魔の魅力

狡猾な悪魔の代表格、地獄の顔役メフィストフェレス(イラスト(C)合間太郎)

 今まで書きたいけど、この文字数で書ききれるのかどうか迷っていた悪魔、メフィストフェレス。ゲーテの戯曲『ファウスト』に登場する。

 ある日、ファウストの書斎にえたいの知れないモノが侵入し、ふくれあがる。ファウストは、こらしめてやろうと四大精霊の呪文を唱える。炎の精サラマンダー、水の精ウンディーネ、風の精ジェルフェ、土の精コーボルト。地球上のモノは何がしか、この四つの要素が入っている。人間には水と空気が支配的であるように、何者であろうと四大精霊の手中にあるのだ。

 しかし、このえたいの知れないモノは、まったく平気でビクともしない。平然と目の前を漂っている。そこで、ファウストは気づくのである。四つの要素の束縛から自由に動き回れるのは、天使か悪魔しかいない、ということを。

 メフィストフェレスの特徴は『ファウスト』の中で、さまざまなセリフになって語られる。ファウストが心の底から満足したときの合言葉「とまれ。お前はじつに美しい」。これは、ファウストが魂をメフィストに渡すときの合図で、この契約のときのメフィストのセリフ「よくお考えになることですよ。聞いたことは忘れませんから」。こんなちょっとしたセリフに悪魔であることを思い起こさせる、ゲーテの才能。

 ファウストは盲目となり、庶民のための居住地をつくることを夢見る。そして、多くの人が楽しく工事にいそしむ音を聞き、満足して、ついに前述の合言葉を言い絶命する。メフィストはすでにファウストの最後が近づいていることを知り、彼の墓を掘っていて、ファウストが喜んだ庶民の工事の音は、実は彼自身の墓を死霊どもが掘る音だったのである。

 メフィストフェレスという大悪魔にして演出家、役者という魅力は、もう原作を読んでもらうしかないでしょう。ああ、やっぱりメフィストの魅力の千分の一も書けなかった。

 (日本妖怪研究所所長)



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