亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

ピュティア(ギリシャ)

2021年10月18日

神の言葉を告げる巫女

神と人間の橋渡し役、ピュティア(イラスト(C)合間太郎)

 この連載では妖精や妖怪を毎回紹介しているが、今回は人間である。でも普通の人間ではなく特殊能力を持った霊媒師、巫女(みこ)である。ギリシャでは、神からのオラクル(神託)を得るのに、神官たちはピュティアという巫女を使った。イラストにあるように、ピュティアの座る3本足の椅子は、地面の裂け目にまたがるように置かれ、下から窒息性のガスが出てくる。それを吸い込んだピュティアは半狂乱になって「お告げ」を口にする。いわゆる「精霊に乗り移られた状態」になるわけだ。その彼女が語ったことを神官や助手たちが書き写し、オリンポスの神々の回答として得るのである。

 日本でも平安時代、陰陽師の言うことは絶対で、彼らが「引っ越しは、この道順で」と言うと遠回りでもそれに従った。今の科学に替わるものが陰陽道であり、日常すべての法則だったのだ。非科学的と笑うのは簡単だが、そこで生きる人々が、いかに幸せに日常が過ごせるかが肝心。今のわれわれが平安の社会より幸せなのかというと、何とも言えないと思う。

 このピュティアに質問して、神託を受けた有名人はというと、ローマ皇帝ネロ、アレキサンダー大王、オディプス王など。オディプス王は、オペラにもなっていて特に知られている。また最も権威ある神託所はパルナソス山の傾斜地デルフォイにあったアポロンの神託所。そこでピュティアはトランス状態になり、国の行方を左右する重要な神託を下す。

 かなうなら、その場面を過去にさかのぼって見たいと思う。迫力あるピュティアと張りつめた「気」の中で、自分の運命が告げられる一世一代の演劇、イベントでもある。ピュティアの語る言葉が意味を成さずとも、それを神官がお告げとして解釈し、作成し、筆記する。女性の地位の低かったギリシャにしては珍しく、文字の読めない一般家庭の女性でも、ピュティアになれた理由は、このへんにありそうだ。

 (日本妖怪研究所所長)



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