亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

ゾンビ(ハイチ共和国)

2021年11月29日

イメージ操作された怪物

「俺の正しい意義と歴史を伝えてくれ〜」(イラスト(C)合間太郎)

 有名な怪物で、私の嫌いなものの代表格「ゾンビ」。なぜ嫌いかと言うと、ただ単に「汚らしい」からである。映画やゲームのヒットでメジャーな怪物になったが、私が小学生の頃は、ハイチ島の民間信仰ヴードゥーの秘儀によって生み出される、歩く死体のことであった。

 ゾンビを作るには墓地の主であり守護者である、サムディ男爵(バロン・サムディ)に動物のいけにえをささげ、彼の手下の霊と契約しなければならない。

 そうして誰かが埋葬されたら、魔術師は契約した霊たちの助けを借りて「モルトー・トンボ・ミヴィ」という呪文を唱えながら、墓から死体を掘り出す。その死体の生前の家の前を通って、生き返らないことを確かめてから復活の儀式を行う。そのときに強い酒を一緒に飲ませると、意思を持たない自動人形(ゾンビ)ができあがる。ゾンビは人を襲うより、もっぱら地域の労働力として働くのである。

 また、このサムディ男爵は、007映画「死ぬのは奴らだ」の中でヴードゥーの儀式の場面に登場する。ボンドに頭を撃ち抜かれても、毒蛇にかまれても復活してくる不死身の死に神だ。

 ヴードゥーやキューバのサンテリアのような宗教は、ラテン・アメリカやアフリカを中心に5千万人もいるらしいが、キリスト教から激しい迫害・弾圧を受けた歴史がある。ハリウッドがゾンビをおもしろおかしく映画にし、テーマパークでもゾンビ・イベントは大はやりだ。もはや宗教儀式のイメージは完全に壊された。

 私はゾンビを「嫌だなあ」って思うけど、他宗教への弾圧、あからさまなイメージ操作は大いに反対である。

 (日本妖怪研究所所長)



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