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「ミミは今日も立ちつくす」(イラスト(C)合間太郎) |
オーストラリアの先住民、アボリジナルピープルに伝わる精霊。岩の裂け目に住んでいる。ひょろりと背が高く、痩せ細り、骨は長くてもろい。だからミミは風の強い日は外に出ない。ポキンと折れそうなくらいもろいのだ。
こんな話がある。ある若者が、岩の割れ目の中のミミの住まいに招かれ、家族のようなもてなしを受ける。ダンスを教えてもらったり、ごちそうをふるまってもらったり。ついにはミミの女の子と結婚までして幸せに暮らす。しかし、若者の父親は彼のことが忘れられず、ある岩の前を通ったところ、ミミたちの歌声が聞こえ、息子に何が起こったのかすぐにわかり、彼も地面に座って歌い出した。
そして時が過ぎ、父親のヒゲが地面に届くまでになった頃、父の歌声に気づいた息子が岩の割れ目に近づくと、父はヒゲを息子の足に巻き付けて連れ出したのだ。父と仲間の所に戻った若者は勇者として迎えられ、ミミのダンスや歌を披露し、ミミの語り部となり、賢人としてたたえられた。
アボリジナルピープルは約6万年前、オーストラリアの地に移り住んだ。1788年、イギリス人の入植後、ヨーロッパからもたらされた伝染病や、入植者からの虐殺によって、先住民の人口は減少し続けることになる。強力で武装した神々に対し、ポキンと折れそうな精霊では太刀打ちできるわけがない。狩りの仕方やカンガルーの肉の調理法など、生活に関する知識やダンスも、ミミが人々に教えたと言うのに…。
「やさしい人々」が、そのやさしさにつけ込まれ、没落していく様をミミは養護することも攻撃することもせず、ひょろりと立ちつくすのみ。自然の精霊にとって理由なき略奪や迫害など、いきなりやってくる人災は、まったくの想定外なのである。
(日本妖怪研究所所長)
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