亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

沙悟浄(中国)

2021年12月27日

日本に足跡を残す唯一の弟子

「天の役人が人肉を食らう妖怪に」(イラスト(C)合間太郎)

 前に三蔵法師の二番弟子、猪八戒のことを書いた。今回はその三番目、沙悟浄である。日本では河童(カッパ)と言われることも多いが、決してそうではない。「水の妖怪と言えば河童」と単純に考えた当時の人々が情けない。実際は捲簾大将(けんれんたいしょう)という天の役人だったのが、女仙(女神)、西王母(せいおうぼ)が催す不老長寿の桃のまつり、蟠桃会(ばんとうえ)にて、うっかり器を割ってしまい、ムチ打ち80回の刑を受け、姿も醜く変えられて地上へと追放された。

 やむなく流沙河(りゅうさが)に住んだが、天の罰はなおもしつこく、7日に一度、するどい剣が飛んで来て彼の脇腹を貫くのだ。彼は飢えると水の上に出て人を食らう。三蔵一行がやって来る前は、同じように天竺に教を取りに行く僧をつかまえては食べていた。彼の首飾りは、その髑髏(しゃれこうべ)をつなげたものである。このように八戒と比べても遜色のない(?)経歴だが、その個性が『西遊記』の中では、まったく発揮されていない。

 また沙悟浄は、史実に登場する実在の三蔵法師を砂漠で助けた神、深沙王(しんしゃおう)でもある。以前、日光について調べものをしたとき、東照宮の入り口になる橋「山菅(やますげ)の蛇橋(じゃばし)」は、深沙王が赤と青の大蛇を橋にして架けたものと言われ、参道の近くに深沙王(沙悟浄)を祀(まつ)ったお堂もあることがわかった。その由来の通り「橋渡し」から男女の「縁むすび」の神としてもあがめられている。

 こう見ていくと作者、呉承恩(ごしょうおん)も、沙悟浄を登場させたはいいが、単なる妖怪としては扱いにくかったのかもしれない。結局、中途半端なキャラクターのまま、三蔵の馬を引いた功績により金身羅漢(こんしんらかん)という名誉ある称号を与え、呉承恩は沙悟浄を天に帰す。

 たしかに何をしたかと言うと、敵と戦うより馬を引くだけのキャラだったような気がするが、沙悟浄は日本に足跡を残す、三蔵法師の唯一の弟子なのである。

(日本妖怪研究所所長)


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