亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

リリス(紅海沿岸)

2022年1月17日

人類が根源的に惹かれる魔女

「リリス、あぶない魅力を放ち続ける美女」(イラスト(C)合間太郎)

 ゲーテの戯曲『ファウスト』悲劇第二部第五幕「古典的なワルプルギスの夜」でのセリフ。ファウストが美女を見つけて悪魔メフィストフェレスに誰なのか尋ねると、「よく見ることですなリリスですよ。アダムの最初の女房です。あのきれいな髪に用心なさいよ。あれで若い男をつかまえたが最後、めったなことでは放しませんからね」と言う。多くの人は「えっ、アダムの先妻さん?」と思うだろう。

 これは『旧約聖書』「創世記」第一章27に「神は人を神のかたちに創造し、男と女を創造された」とあるのに、第二章22では「主なる神は人(アダム)から取ったあばら骨でひとりの女を造り、人のところへ連れてこられた」とあるからで、これによって、あばら骨から造られたイブより以前にアダムのつれあいが存在し、その女性はどこに行ったのかという疑問が湧くのである。

 このことについてさまざまな文献が存在するが総合的に見ると、あくまで自分が上になる正常位を妻リリスに強制するアダムに嫌気がさし、リリスはエデンの園を出て紅海沿岸に住み、複数の悪魔と関係して無数の子どもを産む。アダムは神に訴え、神はリリスに3人のお使いを送り、「アダムの元に戻らなければ、お前の子を毎日百人殺す」と脅すが、リリスは紅海に身を投げ悪霊と化し、逆にアダムとイブの子を殺していくと宣言するのである。

 リリスは以後、さまざまな文芸作品や絵画、映画、アニメなどに登場し、妖しい魅力を放ち続ける。見方によっては、退屈な夫やしきたりに縛られるのが嫌で飛び出した「おてんば娘」と言えるかも知れない。これらの経緯によって、上から押さえつけるアダム(男)から独立するという意味で、現在は女性解放運動のネットワークなどにリリスの名が使われているのが興味深い。

 リリスは残酷ではあるが美しすぎる女性でもある。なにしろ人類の起源から魅力を放ち続ける存在なのだから、全人類が魅了されないわけがないのである。

 (日本妖怪研究所代表)



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