亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

ミダス(ギリシャ)

2022年1月31日

王様の耳はロバの耳

「おお、わしの耳がー!」(イラスト(C)合間太郎)

 この表題のあまりに有名なセリフは、多くの人が知るところだろう。でも出典はどこかと問われると「イソップ童話?」とか、答える人が多いと思う。たしかに教訓的な内容なのでイソップっぽい気もするが、実際はギリシャ神話である。今回のペシニスという都市の王ミダスには、いくつかエピソードがあるが、ここでは音楽の競技会の話をしよう。

 芸能の神アポロンがたて琴を演奏し、満場一致で優勝になりそうだったが、ミダスだけが異を唱えたのだ。そのときのアポロンの怒りはすさまじく「お前の耳はできそこないだ」と、ミダスの耳を引き伸ばして、白っぽい毛を生やさせロバの耳にしてしまった。ミダスはそれから緋(ひ)色の頭巾を被って、誰にも耳を見られぬような生活を送る。

 しかし、お抱えの理髪師には見せないわけにはいかない。髪をハサミで切らせると「口外せぬように」と口止めする。でも理髪師は、王のぶさいくな耳のことを言いたくて仕方がない。そこで地面に穴を掘り「王様の耳はロバの耳」と穴にささやき、土を元にもどした。やがてその場所一面に葦が生え、さやさやとそよぐ度に「王様の耳はロバの耳」と葦の葉音が響くようになった。イソップ風に締めくくると「口から出た秘密は、いずれ人の知るところになる」という感じかな。

 他にミダス王には「私の触れる物をすべて金に変える力がほしい」と、酒の神バッコスに願うと、その通りになり、最初は喜んで柱も石も黄金にするのだが、パンや水や食料までもすべて金に変わるので、喉が渇き、飢えが激しくなって、バッコスに再び願い、元に戻してもらうというエピソードがある。

 ミダスは神話の中で、自らの行いに懲りない王として登場する、ちょっと憎めないキャラなのである。

(日本妖怪研究所所長)


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