亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

マニトウ(アメリカ合衆国)

2022年3月28日

大自然から逸脱した怪物

良き霊から悪しき霊に転落したマニトウ(イラスト(C)合間太郎)

 アメリカ・インディアンの宗教観は日本人に近いと思う。山に野に森に、海にも空にも神がいて、雲の流れや風の音に神の声を聞くことができる。そこには善の精霊も悪の精霊もいる。インディアンは、その中でもっとも強力な大霊が12の自然を支配し、いくつかの霊がそれらの運営を任されていると考える。その良き霊が本来の「マニトウ」である。だが、その自然の運営という仕事から逸脱して、悪さを働く霊が怪物化し、今ではそれを「マニトウ」と呼ぶ。

 詩人ロングフェローが、1855年にインディアン伝説を基に著した『ハイアワサの歌』がある。そこに出てくるマニトウは邪悪で恐ろしくて強い。立ち向かう戦士も返り討ちになりそうだったが、一羽のキツツキが「やつの脳天を狙え」と教える。そこで3本の矢を放つと頭の脳天に刺さり、マニトウは倒れて死んだ。勇者はキツツキへのお礼として、マニトウの血を頭につけたので、キツツキの頭は今も赤い色をしているという。

 また人の生き血を吸うマニトウは、オオカミや鹿など足の速い動物に姿を変えて人と競争する。そして、負けた方がナイフで首を切られるのだ。ある日、魔術の使える勇者がヤマウズラに化け、マニトウはキツネやトナカイに化けるが追いつけない。結果、ヤマウズラに化けた勇者が勝利し、吸血マニトウと彼の妻や子どもは首を斬り落とされた。

 マニトウは大自然に対する畏怖の象徴であろう。自然は時にやさしく時に厳しい。破壊的な力で人々を屈服させるが、アメリカ・インディアンもマニトウに負けてはいない。インディアンの妖怪の筆頭と言えるマニトウだが、日本で同じような存在を探しても見当たらない。マニトウは河童(カッパ)や天狗(てんぐ)より、もっと自然観を代表する精霊なのである。この点、B級ホラー映画「マニトウ」はまったく参考になりませんので、あしからず。

 (日本妖怪研究所所長)



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