亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

キキーモラ(ロシア)

2022年4月12日

糸を紡ぐ死神

顔はオオカミに似て、くちばしがあるのが一般的(イラスト(C)合間太郎)

 ロシアの代表的な家つき妖精「キキーモラ」。特徴は糸を紡いだり、機を織ったり、編み物をしたりと、女性の手仕事が大好きなこと。でも、飛び跳ねながら紡いだり、糸を逆に掛けたり、あまりまともな作業をしてくれない。ロシアのことわざで「キキーモラがシャツを作ってくれるのを待っても無駄」というのがあるらしい。

 この「糸を逆に掛ける」の「逆に」というのは妖精の一般的な特徴で、文字を逆に書いたり、反対のことを言ったり、彼らの住む異界はなんでも逆になるのである。婚礼の前夜、花嫁は糸を逆に紡ぎ、それをお守りにして妖術師の呪いから身を守る風習がある。

 また、キキーモラの「キキー」は雄鶏の鳴き声からきていて、「モラ」は古代スラブ神話の死神の名である。キキーモラは人が死ぬと雄鶏のように甲高く鳴き、嘆き悲しむのだ。

 家の住人に物を投げつけて追い出したり、熊使いの男の熊から追い出されたり、キキーモラと家にまつわる民話がロシアには多数ある。クラシック音楽では、アナトーリ・リャードフが1909年に作曲した「キキーモラ 管弦楽のための民話」が有名。そこでのキキーモラは岩山の魔法使いの家で、雄猫の子守唄を聴きながら育つ。大人になると、すべての人に悪意を抱くようになり、陽のあるうちは大声で叫び、足を鳴らす。夕方は口笛を吹き、舌を鳴らす。夜中から夜明けまでは麻を紡ぐのである。いかにもそれらしい音楽で、よくキキーモラの特徴を表していると思う。日本では「ぷよぷよ」などのゲームやアニメのキャラクターになっているので、若者の方が親しんでいるだろう。

 キキーモラは死神なので、身内の死を知らせるために「ブーン、ブーン」と音を立てて糸を紡ぐ。それによってロシアの妻たちは夫が戦死したことを知り、ほどなく戦死の通知が届くのである。



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