亀井澄夫の妖精・妖怪世界の旅

エインセル(イギリス)

2022年5月23日

僕の名は「自分」さ!

は〜い、私はエインセル、遊びましょ!(イラスト(C)合間太郎)

 子供の躾(しつけ)に「早く寝ないと○○が来るよ」と言うのがあって、これはもう日本も世界も共通のようである。今回は、イギリスのノーサンバーランドでの話。お母さんから「妖精が来て、おまえを連れて行くよ」と言われても、夜遅くまで遊んでいる男の子がいた。

 お母さんが疲れて先に寝てしまうと、煙突から耳のとがった小さな女の子が入ってきて、男の子と一緒に遊び始めた。「君は誰?」と男の子が聞くと「私はエインセル」と答える。(エインセルとは地方の方言で「自分」という意味)。「あなたの名前は?」と女の子が聞くと(「自分」という言い方がおもしろかったので)同じように「自分(エインセル)さ」と男の子は答えた。

 そうして夜もふけ、暖炉の火が消えそうになったので、男の子が火かき棒で残り火をかき回すと、火の粉が飛んで女の子に当たった。「ギャーッ」と女の子が悲鳴をあげると、その声の恐ろしさに男の子は、積んであった薪の陰にとっさに隠れた。

 すると、ものすごい音とともに女の子のお母さんが煙突から飛び込んで来た。「お母さん痛いよ、やけどしたよ」と女の子が言うと「誰がおまえにやけどさせたんだい。名前を言ってごらん、仕返ししてやるから」と聞くので、女の子は男の子の名前「エインセル(自分)よ!」と言った。「なんだ、自分でやっておいて、大さわぎしてたのかい。もう帰るよ」と言って、女の子を煙突の中に蹴り上げ、母親も帰ってしまった。男の子はあわててお母さんのベッドにもぐり込み「もう二度と夜ふかしはしません」と誓ったそうである。

 大阪人は本名を言わずに、電話で「自分や〜」とあいさつしたり、相手に「自分なぁ、ちょっとひどいんとちゃう?」と言ったりする。ひょっとして、エインセルなど「妖精除け」のまじないかしら。日本でも世界でも、妖精や妖怪に本名を明かしちゃいけないのだ。

 (日本妖怪研究所所長)



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