潮騒 2023.6.5

 これほど注目されたシリーズはなかっただろう。将棋の藤井聡太竜王(20)=王位・叡王・棋王・王将・棋聖と合わせ六冠=が、第81期名人戦7番勝負で渡辺明名人(39)を4勝1敗で退け、八大タイトルで最も歴史がある「名人」を初めて獲得。七冠の栄誉を得た◆20歳10カ月での奪取は史上最年少。従来の記録は、谷川浩司17世名人(61)が1983年の第41期で当時の加藤一二三名人(83)を破った21歳2カ月で、藤井七冠はこれを40年ぶりに塗り替えた◆「重みのあるタイトルなので今後はそれに見合う将棋を指したい」。本紙2日付朝刊が新名人の喜びの声を伝えている。江戸期以来の家元制から転じ、1935年に始まった実力制で名人位に就いた棋士は15人。通算5期保持した永世名人の資格者になるとわずか6人。まさに「選ばれた人間」だ◆報道はそろって、小学4年でつづった「名人をこす」という夢を紹介している。低迷が続いた将棋界を救ったスーパースターが名実ともに頂点へ上り詰めた。どこまで進化するのか◆残す栄冠は「王座」で、史上初の八冠制覇に王手。保有者は、そのストイックさから“軍曹”とも呼ばれる永瀬拓矢王座(30)だ。双方とも居飛車の重厚な指し回しが特長で、挑戦権争いから目が離せない。(藤)

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