潮騒 2023.6.8

 「なすとなすび、どっちが正解?」と息子に聞かれ、「ハテ?」と首をかしげた。愛知県で生まれ育った私はなすと言うが、大阪ではなすびと耳にする機会が多い◆どちらも漢字は「茄子」。インドが原産で、日本に伝わったのは奈良時代。当時は夏に実をつけることから「夏実(なつみ)」、それがなまって「奈須比(なすび)」、酸味を有したことから「中酸実(なかすみ)」など語源は諸説ある◆種類は豊富で、一般的に「千両なす」と呼ばれる「中長(ちゅうなが)なす」や「丸なす」「卵形なす」「長(なが)なす」「大長(おおなが)なす」のほか、アメリカ品種を改良した「米なす」、皮が白い「白なす」など。各地での伝統品種も多い◆大阪では江戸時代初期から泉州地域のみで栽培されていたみずみずしい「泉州水なす」や、南河内の大きな千両なすで一般によく食される「大阪なす」、他と比べて水と手間が必要で生産農家が少ない摂津市鳥飼の「鳥飼茄子」がある◆なすびがなすとも呼ばれるようになったのは徳川家康が「物事を成す」にかけ、縁起の良い野菜に持ち上げたことからだとか。初夢に見ると良いとされる順に並べた「一富士二鷹(たか)三茄子」という言葉も生まれた。家康にあやかって「成す実」や「成す美」としていたら、全く違ったイメージの野菜になっていたかもしれない。(斎)

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