時代とともに、何が心の豊かさにつながるかは変わってくる。以前、山口県、下関市豊田町で川を行く舟から見たホタルの乱舞は、今思い出してもこれ以上ないほど美しい光景だったと思う。
山口大学時間学研究所で行われたシンポジウムに、当時山口大学にいらした哲学者の入不二基義さん(現青山学院大学教授)が誘ってくださった。議論の後で、入不二さんが「ホタルを見に行きましょう」とおっしゃったのである。
今思えば、一つのサプライズだったのだろう。詳しいことは知らないままに現地に行って驚いた。暗い川を船が進むと、周囲に、まるで動く銀河のようなホタルの群舞があった。その圧倒的な生命の輝きに、自分の魂の故郷を見るような思いがあった。
なぜなつかしい気持ちがしたのかと言えば、かつてホタルは日本のあちらこちらにたくさん発生していたからだろう。それが文化的にある種の「集団的記憶」として残っていて、私たちの脳の中で深い感情の動きとともに認識され、よみがえる。暗闇でたき火を見つめる時と同じように、心が過去にタイムトリップする。
現代では、ホタルの群舞はたき火よりも出会うことがはるかに難しい。豊田町にホタルが生息し続けている...