翼の折れたコハクチョウ 「吉田さん」死ぬ 「寂しい」悲報に喪失感

 翼が折れて長らく米子、安来両市の中海周辺で暮らしていた雌のコハクチョウ「吉田さん」が死んだことが分かった。22日に米子水鳥公園(米子市彦名新田)のスタッフが安来市の伯太川で確認した。老衰か、他の動物に襲われたためなのか死因は不明。毎年春には同園に姿を見せる“マスコット”的な存在がいなくなり、関係者は一様に喪失感を抱いている。

 吉田さんの愛称は、安来の吉田川河口などで過ごしていたことから同園スタッフが命名。2011年に左翼を痛めたため大陸へ渡ることができなくなり、中海にすむようになった。14年以降は3月下旬に仲間が全て北へ旅立ったのを見届けた後、安来から同園にやって来てしばらく過ごすのがお決まりで、鳥取県内外から吉田さん目当てに同園を訪れる人もいたほど人気者だった。

 20年春には、顔や首が赤さび色に染まった外来種のコブハクチョウ「てっちゃん」とつがいになっているのが確認された。自然界では出合うことがない異種同士の上、他のコハクチョウを追いかけ回す“荒くれ者”との恋に関係者を驚かせたこともあった。

 同園に悲報が届いたのは今月22日だった。吉田さんの活動場所の一つになっていた安来の伯太川を通りがかった住民から「吉田さんが死んでいるかもしれない」との連絡を受けて同園の三原菜美指導員が現場へ急行し、折れた翼など吉田さんの特徴と一致していることを確認。暮らしていた場所の土にかえそうと死骸は持ち帰らず、辺りに散らばった羽毛の一部を回収した。住民の目撃談では19日は生きていたという。

 長年、吉田さんを見守り続けた桐原佳介統括指導員は、自然界でけがをした野生動物が生き続けることができたことは「奇跡」と説明。いつかはこうした事態が起きると覚悟はしていたとしつつも「毎年、水鳥公園に来てくれるのが当たり前になっていた。広く、多くの人に親しまれた存在。やっぱり寂しい」と惜別の情を述べた。

【記者の手帳】
感情揺さぶられる存在
 翼が折れてもなお懸命に生き抜く力強さ、他のコハクチョウがいなくなった米子水鳥公園にたたずむ姿からにじみ出る哀愁。「吉田さん」は複雑に感情が揺さぶられる存在だった。最も衝撃的だったのはコブハクチョウ「てっちゃん」と結ばれた時だった。互いに胸を付き合わせる求愛行動をロマンチックだと見ることもできた。ただ、てっちゃんは人間が持ち込んだ外来種。生息域が異なり、本来は出合うこともなかったはずの2羽は何を思い、何を通じ合っていたのか。吉田さんは人間に何か問題提起したかったのではと思わずにいられない。

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