金井啓子の伴走で伴奏

吉野家を揺るがした暴言の威力

2022年4月25日

語彙力と自覚のなさが危機の道

 最初にネットでニュースを見た時はデマかと思った。大学の講座で「生娘」「シャブ漬け」という、一昔前の時代劇かヤクザ映画でしか耳にしない言葉が飛び出すとは思わなかったからだ。だが事実だったから驚いた。

 牛丼の吉野家の常務だった男性が、早稲田大学の社会人向け講座で、常務の専門であるマーケティングの話題で口にしたという。

 講座で常務は「生娘をシャブ漬けに戦略」と何度も発言し、「田舎から出てきた右も左もわからない若い女の子を牛丼中毒にする。男に高い飯をおごってもらえるようになれば、絶対に食べない」と語ったという。だが、この発言を不快だと感じた受講生がSNSで発信したことで事実が発覚。マスメディアの報道で広く知られることになり、吉野家と早稲田大学は世間に平謝り。なお、この常務は既に解任され、今は「前常務」である。

 高額な受講料を支払って暴言を聞かされた受講生も気の毒だが、もっと気の毒なのは吉野家で働く従業員だ。彼らは当分の間、客から文句を言われ、そのたびに頭を下げることになりかねない。

 吉野家の説明では、前常務は「若年層に吉野家を継続的に利用していただくときに、どのような戦略があるか考えてもらうとして、受講者に設定をお伝えする中での発言だった」と説明したという。なるほど、意図はわからないでもない。

 だが言葉の使い方が完全に間違っている。今どき反社会的勢力に関する話題くらいでしか耳にしない言葉を使わなくても適切なフレーズはいくらでもある。おそらく受講生のウケとインパクトを狙い、わざと「生娘」「シャブ漬け」という言葉を使ったのだと想像する。インパクトはありすぎたくらいで、吉野家のイメージと株価は大きく下がった。

 マーケティングとは、客のニーズを十分につかみ、販売努力がなくても顧客が自然と商品に手を伸ばすことが理想だといわれている。だとすれば前常務は、吉野家から客が離れていくという正反対のことをやった。これでは「専門家」の肩書も泣いている。

 役員の不用意な発言が会社を揺るがす事態へと発展した。時代にそぐわない言葉を公然と吐けば、たちまちSNSなどで拡散される時代だ。責任ある立場の人間こそ、発言する時は「つい、うっかり」のミスを犯してはいけない。今回の問題は不用意な言葉が持つリスクをまざまざと教えてくれた。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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