澪標 ―みおつくし―

結納の高砂人形に見る幸せの形

川中 由美子
花嫁介添人
2021年4月19日

 現在53歳である私の経歴は少々変わっている。26歳で結婚を機にホテルでのウエディングプランナーの仕事を退職し、夫が経営する会社を手伝うことにしたが、30歳になったのをきっかけに何か新しいことを始めたいという思いにかられ、大学の夜間部に入学した。仕事と学業の両立はかなり厳しいものだったが、社会人としての経験を積んだ後の学生生活はとても新鮮で、この経験はその後の私にとって大きな糧となった。花嫁介添人としてウエディング業界に復帰したのは40代後半になってからである。

 大学在学中、アメリカ人教授の講義の中で、毎回クラスの一人が教壇に立ち、自分でテーマを決めてスピーチをするという課題を与えられた。趣味、出身地の紹介、読んだ本、見た映画、時事問題などテーマが多彩で、クラスメートそれぞれの個性と関心事を垣間見ることができ、私は毎週この講義を楽しみにしていた。

 ウエディングプランナーの経験があった私は「結納」をテーマに選んだ。クラスメートの大半は20歳前後だったため、結婚にまつわる話は興味を持ってもらえるだろうと考えたのだ。アメリカ人教授にとっても日本文化は関心事であるはずである。

 さて、どんな切り口で結納の話をすれば、より興味を持ってもらえるだろうかと、あれこれ方法を考えた結果、私自身の結納品のひとつである「高砂人形」を教室に持参し、実際に手に取って見てもらうことにした。白髪の老夫婦の人形は、長寿と夫婦円満の象徴であり、能の演目「高砂」に由来する縁起物である。披露宴で新郎新婦が座る席を「高砂席」と呼ぶのも同じ由来である。

 そして、この人形はそれぞれ手に道具を持っており、男性は熊手、女性は箒(ほうき)と決まっている。男性が熊手で大きな福(財運)をかき集め、隙間からこぼれ落ちた小さな福を女性が箒で集め、2人で力を合わせてすべての福を手にするという意味がある。また、箒には魔よけの意味もあることから、家を守る役目である女性が持っているという説もある。

 当時、私のこの説明をクラスメートたちは特に異議を唱えることもなく聞いてくれたと記憶しているが、あれから20年以上がたった令和の時代では、夫婦の形も多様化した。今、もし、私が同じ内容のスピーチをしたとしたら、性別で役割を決めるなど時代錯誤だとお叱りを受けるかもしれない。熊手を使いこなして財を築く女性もいれば、箒のほうが使い勝手がいいと感じる男性もいるだろう。幸せをつかむ道具は自分で決めればよい。花嫁介添人として、数多くの新郎新婦とお会いするたびに、幸せの形は人それぞれだと改めて感じる。

 時代と共に結納は簡略化される傾向にある。煩雑な儀式を避け、婚約指輪、結納金のみを贈る場合も多いと聞く。わが家の高砂人形も狭いマンション暮らしでは飾る場所もなく、長年、実家の押し入れで眠ったままである。この執筆を機に久しぶりに取り出して眺めてみようかという気になった。「私が幸せになるための道具は何だろう」と考えるいい機会になるかもしれない。

 (大阪市都島区、かわなか・ゆみこ)



サイト内検索