街と人 なにわの夢

 大都市・大阪の街は時代とともに変化してきたが、そこには人々の暮らしが息づいてきた。今後、街の姿はさらに大きく変貌していくことが予想される。目に見える変化だけでなく、暮らしを取り巻く環境もまた同じだ。街と人に焦点を当て、令和時代の変わりゆく大阪を見つめる。

第4部「変革に挑む」(下)「岐路に立つ企業」

2020年12月1日

原点回帰で切り開く道

出前で料理を頼みつつ、会員らが会話を楽しめる環境を整えた大崎社長(左から2人目)=大阪市中央区のコナイト

 「誰かの命を危険にさらすくらいなら、閉店したほうがましだ」−。シェアオフィス運営会社「カエル」(大阪市中央区)が、ビジネス関係者の交流を図るため、昨年開店したバー「コナイト」(同)。新型コロナウイルスが流行する中、無症状でも飛沫(ひまつ)感染の可能性があるとの報道に、大崎弘子社長(44)は今年3月、自主的に臨時休業を決めた。

 「会話を促そうと店をオープンしたのに、それができないのは本末転倒」。開設の目的に立ち返って熟慮した結果だった。

 ようやく経営が軌道に乗り始めるさなかの決断だったが、この「原点に立ち返る」行動が変革を促し、より持続可能な道を切り開くことになる。

■価値を明確化

 臨時休業後、すぐに3密対策に着手。換気用の窓の設置工事を行い、席の配置を見直すと、完全会員制に移行して来店者を把握できるようにした。

 運営の仕組みも試行錯誤。追求したのは、「その場にいる人たちの何げない会話から、自分が抱えている問題が解決する。そんな居心地のいい場所」(大崎社長)。バーの体裁に執着しなかった。

 くつろげる雰囲気づくりを重視しつつ、営業時間は週3日、1日3時間と約6割減らし、飲食をセルフサービス化。ふらっと立ち寄った人同士が出会う確率を高めるとともに、人件費などを削減した。

 ただ、飲食の売り上げが減る分、月額の会費が経営の存続を左右する。

 運営体制を移行して会員が離れれば死活問題だったが、店を再開した5カ月後に支えとなったのは、ほかならぬ会員たちだった。大半が継続し、店の収益になるように飲食する姿も見られた。

 常連の一人でIT企業経営の佐田幸宏社長(36)は「自分やほかの会員にとって、安心していられる場所。みんなで守っていきたい」と笑顔を見せる。

■“小さな経済圏”

 飲食のセルフサービス化に伴い、店内への持ち込みや出前の注文も認めた。それが、近隣の飲食店の売り上げにも貢献している。

 近隣でイタリア料理を営む店長(40)は「歩いて来られる距離で、効率よく運営できる」と受注を喜ぶ。コナイトの客は欲しい料理が食べられ、提供する飲食店も潤う。ご近所同士で支え合う“小さな経済圏”が誕生したともいえる。

 店舗の価値を追求し、足りない物は補い合う。変革を遂げた経営で難局に挑む大崎社長はこう力を込める。「新型コロナ禍だからこそできることがある。私は諦めない」

 ピンチをチャンスに変える行動を起こせるか。多くの企業が今、岐路に立たされている。

ミニクリップ
 新型コロナ禍の飲食店
 新型コロナウイルスは、せきやくしゃみなどの症状がなくても、近距離で多くの人と会話する閉鎖空間だと、感染を拡大させるリスクがあるとされる。そのため飲食店は、自治体からの休業や時短営業要請などもあり、倒産件数が増加。感染拡大防止対策の徹底をはじめ、移動式店舗や宅配・持ち帰りへの業態転換など、対応に迫られている。


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