ボサノバ歌手 結美のボア・ヴィアージェン

 関西を拠点に活躍するボサノバ歌手の結美さん(27)。ライブ活動では清涼感ある歌声で多くのファンを引き付ける。昨年は発祥の地ブラジルで演奏を披露し、ボサノバ音楽の奥深さも体感した。「悲しみを包み込むような明るさが好き」と語る結美さん。ボサノバへの思いを本紙に寄稿した。5回連載。

ブラジル紀行(上)

2014年10月2日

音楽は「生活」そのもの

サルヴァドールの市街地。街に音楽があふれ、生活の中に溶け込んでいる

 26歳にして初めての海外。それは日本から一番遠い国、ブラジル。2013年11月、ボサノバとの出会いから10年たち、夢に見続けた場所へと旅立つ日はやってきた。

 晩秋の気配に包まれている大阪から夏が近づくサンパウロへ。乗り換え含め26時間かかったが、窓の外に南米大陸が見えてくると、疲れは一瞬にして吹き飛んだ。

 着いた瞬間は想(おも)いがあふれて胸がいっぱいになるのだろうと思っていたが、落ち着いた気持ちで空港に降り立った。

 日本で知り合った友達が迎えに来てくれた車の中から、外の景色を眺めていると、見るからに雰囲気があやしい路地がある。あぁ、私はいま南米ブラジルに居るんだ、これから3カ月弱、どんなことを見て、聞いて、触れて、感じられるのだろう。

     ♪

 サンパウロには1週間滞在し、そこから音楽の街サルヴァドールへ。海が近いからか湿気を含んだ風が吹いている。カンカン照りの太陽に焦がされながら眺める紺碧(こんぺき)の海。旧市街はパステルカラーのかわいい建物が並んでいて、おとぎ話の世界に居るようだ。

 毎週火曜日のフェスタと呼ばれるフリーライブでは、迫力あるサンバが体の芯に響いてくる。みんなそれを堪えきれず体を揺らし始め、広場はあっという間にリズムのうねりに包まれる。ステップと共に笑顔がはじけていく。音楽は特別なものではなくて、彼らの「生活」そのものなのだ。

     ♪

 ある夜、広場に打楽器の力強い音が聞こえてきた。どうも教会の方から流れてきているらしい。吸い込まれるように中に入ると、そこにはリズムに身をまかせ、歌い、祈る人たち。ここは黒人が黒人のためにつくった教会。彼らの奏でる祈りに包まれ、いつの間にか涙が頬をつたっていた。

 ブラジル音楽の根っこに触れたような、忘れられない一夜だった。

 (ボサノバ歌手)

 (月1回掲載)

 ◆結美(ゆうみ) 本名・山本結美。1987年、兵庫県生まれ。16歳でボサノバ音楽と出会い、関西を拠点に活動する。祖母は鳥取県琴浦町出身。連載タイトルの『ボア・ヴィアージェン』はポルトガル語で「良い旅を」の意味。

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