金井啓子の現代進行形

NHKが放つ異彩番組に脱帽

2018年6月7日

”5歳児”に叱られない良識を

 近ごろ、爆笑に次ぐ爆笑で私がハマっているテレビ番組がある。NHKのクイズ番組「チコちゃんに叱られる!」だ。お堅いNHKが手がける番組にしては、下手なバラエティー番組よりも断然面白い。

 主役の「チコちゃん」とは幼い女の子のキャラクターである。顔から下は洋服の着ぐるみで、おかっぱが似合う大きな丸顔はCGで描かれている。設定では5歳なのになぜか妙に大人びていて、博学かつ毒舌。東京に住んでいるらしいのに、たまにベタな大阪弁が飛び出す。

 このチコちゃんが3人の回答者に質問するのだが、その質問の内容があまりに単純過ぎて、かえって誰も答えられない。例えば、ラーメンの「ラー」の意味や起源は何か、戌年(いぬどし)の「戌」とはどういう意味か、焼き肉とバーベキューの違いは何か…等々である。普段から何の疑いも持たずにいるためか、質問されても本当の意味を知らないことが多い。

 番組では回答者が間違った答えを出すと、突如チコちゃんの両目から炎が上がり、汽笛の音ともに頭から白い湯気を吹き出して「ボーっと生きてんじゃねえよ!」と真っ赤な顔で怒りだす。ここも笑いのツボにハマる理由である。

 さて、分かっているようで、実は意外と知らない問題は世の中に山のようにある。本来はちゃんと突き詰めて考えるべきなのに、世間体を気にするためか分かった顔をしていることは少なくない。たとえば、まだ大学では講義の期間中であるにもかかわらず、就職が内定した学生を「研修」という名目で企業が社内行事に引っ張り出すのは、なぜか。“歩きスマホ”をやめない人が道にあふれているのは、どうしてなのか…等々。

 逆に、当事者は分かっているはずなのに真相を語らないことが、昨今の政治で目立つ。森友学園の国有地取引をめぐって財務省が決裁文書を改ざんした問題で、麻生太郎財務相は今月4日に調査結果を報告し、職員の処分を発表した。だが、佐川宣寿前理財局長らが改ざんに手を染めた理由を記者が問うと、「それが分かれば苦労せん」と言い放った。一方、大阪地検特捜部は公文書を改ざんした財務省へ家宅捜索を行わず関係者を不起訴処分としたのに、同じ検察である東京地検特捜部は5日、製品の品質データを改ざんした神戸製鋼東京本社には家宅捜索に入った。いずれも私には全く不可解だし、そう感じている国民は少なくないだろう。

 知識がないより豊富な方がいいに決まっている。同時に、分かったふりをして不条理に目をつむることは、いずれ社会を悪くする。たった5歳のチコちゃんから「ボーっと生きてんじゃねえよ!」と叱られる前に、そろそろおとなしい日本人から脱した方がいいと思う今日このごろである。

 (近畿大学総合社会学部教授)



サイト内検索