連載・特集

澪標 ―みおつくし―

森づくりの歴史

沖中 玲子
株式会社Line Work(s)代表取締役
2010年3月26日

 前回のソメイヨシノの物語に続き、今回はもう一つの人が育てた森のお話をしたいと思います。

 突然ですが、皆さんは「ドイツ」と聞けば、どんなイメージをもたれるでしょうか? 自然や環境、森や木、歴史…、そんなキーワードを思う方が多いと思いますが、私の最初のイメージは「森の少ない国」でした。

 実は2年ほど、私はドイツで暮らしたのですが、初めて飛行機から見たドイツは茶褐色で、緑色が少なかったことを覚えています。

 それもそのはず、実は森の国と呼ばれるドイツではありますが、その国土に森林が占める割合はたったの3割。国土の7割を森林が覆う日本上空の眺めに比べれば、茶褐色が多いのは当然と言えば当然です。

 なのに、どうして森の国なんて呼ばれるのかなと思いながら空港を後にすると、高速道路沿いにも町中にも、人の生活のすぐそばには、高い木の茂る林や公園がありました。暮らして初めて、「なるほど、森の国なんだ」と、納得しました。

 緑の中に町をつくったのがドイツなら、それがかなわなかったのが日本です。日本の森はとても急で険しいので、そこに町をつくるわけにもいかず、「緑のない都会」と「緑ばかりの田舎」ができてしまいました。だから都会暮らしの私たちは、緑豊かな国に生まれながら、それを感じることなく生活しています。

 でも、緑豊かなことは、そう当たり前のことではありません。温暖多湿で植物が育ちやすい日本とは違って、世界には植物が育ちにくい地域もたくさんあります。先ほどのドイツだって、有名なシュバルツバルト(黒い森)を酸性雨によって失った歴史があります。だからこそ、自然を尊び、森を慈しむ心が育って環境意識の高い国になったのです。

 日本では、町から少し車で走れば、人が育てた立派な森を見ることができます。そのほとんどは、第2次世界大戦後に植えられた杉や桧(ひのき)で、40〜60年の時を超えた歴史ある森。実はこれも、海外では見られないとても珍しいことなのです。世界の森のほとんどは自然と樹木が育ってできた森で、人が育てた森はたったの5%。そのうち半分は植えられてから十数年の若い森で、長い森づくりの歴史を持つ国は珍しいのです。

 さらに日本には、何百年もの森づくりの歴史をもつ地域があり、そこには200年、300年もの時を経た森が、今もなお残っています。

 そんな歴史の中、「日本三大美林」と呼ばれるまでに美しく育った森があることをご存じでしょうか?

 奈良県の吉野杉、静岡県の天竜杉、三重県の尾鷲桧の森です。特に、関西ではなじみ深い、桜や紅葉でも有名な吉野では、500年以上も前から、美しい森で、美しい木を育て上げる文化が培われてきました。天高くまっすぐに上を向いてそびえる木々の姿はこうごうしく、凛(りん)とした空気に満ち、木漏れ日が優しく揺れています。

 そして何より、今を生きる私たちにとってラッキーなことは、そんな美しい森で育った木を、住まいや家具に使えるということ。このことについては、また次回お話しします。たまには身近な美林を訪ね、リフレッシュしてみませんか? Line Work(s)では森への案内ツアーを開催しています。よろしければホームページ(http://www.line−ws.jp)をのぞいてみてください。

 (おきなか・れいこ 大阪府豊中市)