澪標 ―みおつくし―

「美術」が仕事その4

中津海智子
ギャラリーなかつみ
乙(いつ)企画代表
2012年10月16日

 美術館と予算についてのお話。前回は世界の二大美術博物館の大英博物館、ルーブル美術館でしたが、今回は世界最大級の美術館、メトロポリタン美術館です。

 日本と世界的美術館・博物館とを比較して何になるかとお思いの向きもおいでと思いますが、ここは辛抱してしばらくお付き合いください。

 世界的にも有名なこの美術館は、実は国立でも公立でもない全く私的な美術館であり、2009年の資料では収入200億円の内、寄付35%、美術館会員費11%、入場料14%で約半分を占め、その他寄贈を含む補助金と利息等26%、ニューヨーク市の公益事業費6%とメンテナンス費7%(市有地のセントラルパークにあるため)となっています。

 メット(メトロポリタン美術館の愛称)は1866年、独立記念日を祝うパリでの会合で参加者のひとり、ジョン・ジョンストンがアメリカに国際的規模の美術館が存在しないことを憂いて設立を訴えたことに始まり、当時建物も一点の美術作品の所有もなかったにもかかわらず、わずか4年後には開館。現在は、あらゆる時代、地域、文明、技法による300万点余の美術品を所有してます。

 寄付が収入の約3分の1を占め、寄贈された作品も数多く所蔵してますが、これに関しては面白い話があります。当選後、高額所得者に対する大型減税を実施しようとしてたブッシュ大統領(父)をロックフェラーなど大富豪たち三人が訪ね、口を揃(そろ)えて非難したんやとか。「大型減税を実施すると、我々(われわれ)金持ちは節税のため美術館に寄付や寄贈をしなくなる。アメリカの文化施策にとって良くないし、我々の名誉のためにもやめてくれ」と言うてです。

 自国の美術や文化を保護し、顕彰するために個人が費用を負担することを是とするメットの在り方は、予算を大幅に削減された日本の国立・公立美術館博物館の良き手本とするべき美術館やないでしょうか。

 折しも大阪では橋下徹市長が『文化の育つ環境を整備することが行政の仕事』とし、歌舞伎や上方落語を取り上げて『伝統の上に胡坐(あぐら)をかかず、行政からの支援に頼らず、日々努力を重ねて』いることを指摘、交響楽団や文楽同様、美術もその範疇(はんちゅう)である、いわゆる「文化活動」に対して『自助努力による経済的な自立』を求めてます。国家・地方自治体が財政難の現在、当然そうあるべきですが、その一方で事はそう簡単ではおまへん。

 メットでは、寄付または美術品を寄贈すれば相続税が減額されますが、日本では私立の施設への寄付寄贈は贈与と看做(みな)され、贈与税が発生して負担が増え、公立の施設に対する寄付も税控除の対象ではないんです。というわけで、この続きは最終回に譲ります。

 (なかつみ・ともこ 兵庫県西宮市)



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